一方で,対訳句を追加することで翻訳精度が低下したと考えられる例も存在する.+人手対訳句の結果について,表7.5の例において,+人手対訳句では出力文中に「thumped me」という誤った翻訳が生じている.これに関して,入力文中の日本語単語「どきどき」を含む人手対訳句を調査すると,英語側に「thumped」を含むものが複数確認された. これは,「胸がどきどきする」という日本語に対して「my heart thumped」という翻訳を含む対訳文から作られた対訳句である.このような対訳句の対応は必ずしも誤りとは言えないものの,表7.5の例のような文中の用法としては不適切なものとなっている. このように,対訳句を追加する手法では,句レベルの対応を重視した結果,文全体としては誤った表現を導く可能性があることが課題としてあげられる.
また,+自動対訳句の結果について,表7.8の例では, 入力文中の語句「兵力 を 1 万 に 抑える」に対して,ベースラインでは「restrict troops to 10 , 000」と,比較的正しい翻訳が得られている一方で,+自動対訳句では誤った翻訳となっている. これについて,入力文中の日本語句と自動対訳句との相関を調査すると,自動対訳句中に日本語句「兵力 を 1 万」に対して「to 10 , 000 」という英語句の対が確認された.この対では,日本語側の単語「兵力」に対して正しい訳語が含まれておらず,これを用いたNMTの学習では不十分な対応が強調された可能性がある.このために,+自動対訳句の翻訳文においても正しい訳語を含まない出力文が生成されたと推察される.