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自由発話において特有な言い誤りは、文法的、意味的な前後関係を考慮して決定する必要
がある。また、言い淀みは音声を注意深く聞いて決定する必要がある。したがって言い誤
りや言い淀みの言語現象は話者が言い直さないかぎり検出するのは困難である。したがっ
て、ここでは言い直しの出現頻度のみを研究した。調査は言い直しを含む200文に対して行
なった。この言い直しの分類と出現頻度を、図
6.5に示す。また例文を以下に示めす。例文中
においてアンダーラインは言い直しを意味する。
図 6.5:
言い直しの出現頻度
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自由発話における言い直しの例文
- 無意味な単語の挿入 25%
- 日本語から英語へというように
、と、翻訳を、す、
あ、通訳をするコンピュータを開発している
(「通訳」と言お
うとして「翻訳」と言い間違いをし、これに気がついて直そうとし
て言い淀んでいる。)
- えーっと、あのー、こ、会議期間中は特に
あのー、バスを運行しておりまして、土曜ダイヤでバスが、あのー、
運行するようになっております。
(原因が不明、「こ」は、無意味
な音の発声であるため、間投詞と判断される可能性がある。)
- 最終的な、えーっと、草稿、原、えーとスピー
チ原稿を提出していただきたいと思います。
(「原稿」と言おうとして「草稿」と言い間違いをし、これに気が
ついて直そうとして言い淀んでいる。)
- パンフレットの方を拝、見ていただきましたら
(「拝見」と言おうとして敬語の間違いをして言い淀んでいる。)
- 意味の異なる単語の挿入 18%
- あの、そのようなことが、あの、そちらの方にお教え、お知らせ
できないんです。
(「知らせる」を「教える」に言い間違えている。)
- タクシーに、あのー、京都駅からお乗りになれば、大体35
分か40分位で着きますし、旅費、料金としては、大
体1500円位になります。
(「旅費」と「料金」は、意味的にはほとんど同じであるため、『丁
寧な言葉への言い直し』とも分類できる。)
- この件に関しましては、えーっと、大阪まで、あのー、
新幹線で来られますと、飛行機で来られますと45分間
位で参ります。
(「飛行機」を「新幹線」と言い間違えている。文全体の挿入の誤り。)
- 同じ単語の繰り返し 14%
- えーっと、その、その中でちょっと、あの、クレジット
カードをね書類の方は、
(「その中」を1つの単語と捉えたならば『単語の言い直し』とも解
釈できる。)
- 会議の内容なんかをかいつまんでお話、お
話し下さればと思うんですが。
- 単語の言い直し 13%
- あの、この、クレ、クレジットカードというのは本来外国人のゲストの方
- 従いまして、2、あ、2時間半位で東京から国際
会議の行なわれる場所まで行けるわけですから、
- 助詞の誤り 10%
- まだ割引を私の方で、あのー、することに、はできないんですが
- はい、それで、はそうですね。
- コンピュータによる同時通訳を、に関する、あのー
会議を開こうということです。
- オーバーヘッドープロジェクタと2インチ×2インチのス
ライドを、と使えるようになっています。
- 丁寧な単語を用いた言い直し (名詞) 13%
- えーっと、郵送でVLDB86の、えーと、会議
事務局、国際会議事務局宛にお送りいただきたいと思います。
(意味的には『 同じ単語の繰り返し』ともみなせる。)
- それで、えーっと、受領の通知は、受け取りの通知
は12月31日までに出させていただきます。
- これは現在の為替でいきますと、レートでいきま
すと、大体16,000円程になりますので
- その次に日本の総理大臣中曽根首相から挨拶を、
スピーチをすることになってます。
- 丁寧な単語を用いた言い直し (動詞) 7%
- はがきででも来られない、参加できないという風に、御通知いただければ、
- ええ、外国人の申し込みの方は、現在までで13名で
あり、ございます
- そうですか、という、といいますと、それは英語でしなければいけないわけでしょうか。
この図における言い直しの分類は、かなり主観的である。例えば、単
語の意味の違いは明確でないため『意味の異なる単語の挿入』と『丁
寧な単語での言い直し』の区別の差は明確でない。また、日本語では
単語の概念が曖昧なため、『同じ単語の繰り返し』と『単語の言い直
し』の区別の差も明確でない。
なお文献[75] では言い直した単語に着目して、言い直した単語の
長さを報告している。これを見ると言い直しの59% は、言い誤った単語を直
ちに言い直している。この傾向はほぼ同じである。また文献[62]
においてもほぼ同様な結果が見られる。この論文では単語にならないsyllable
が39%、直後に言い直しているのが52%であることが示されている。これらの
結果は、今回の結果に類似している。
Jin'ichi Murakami
平成13年1月5日