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日本語動詞の時間的性質

日本語動詞における時間関係の解析においては,時間表現から発話時、参照時の 関係, 事象時,参照時の関係をそれぞれ抽出し,それを結合することにより行う.

以下の表2で語尾形式 と動詞の分類から発話時と参照時の時間関係を決定する規則を示す.なお,表中 の「*」は,すべての動詞に適用可能である.発話時と,事 象を捉える基準時である参照時との関係は、時間概念のテンスに相当する.


   
Table 2: 発話時・参照時の時間関係決定規則
語尾形式 動詞の種類 時間関係
  状態動詞,内的動作動詞 S=R
[0cm][0cm]ル形 外的動作動詞,変化動詞 S=R or S→R
テイル形 S=R
タ(テイタ)形 R→S

つまり,「走った」では,過去の事象を捉えているため,発話時と参照時の関係は「R →S」となり,「走っている」では,発話時において捉えているため,「S=R」となる.

また,以下の表3で,語尾形式と動詞の時間的性質から事象時と参照時の関係を 抽出する規則を示す.事象時と,参照時の関係は時間概念のアスペクトに相当する.


   
Table 3: 事象時・参照時の時間関係決定規則
動詞の種類 完了相(ル形,タ形) 継続相(テイル,テイタ形)  
状態動詞 E=R    
  内的動作動詞 E=R E(P)=R  
[0cm][0cm]動作動詞 外的動作動詞 E=R E(P)=R  
変化動詞 E=R E→R  

状態動詞はテイル(テイタ)形を取らないため,空欄となっている.

以下に例文を示す.

 \begin{displaymath}\ \ \ \ \ \ ここに本がたくさんあった.
\end{displaymath} (7)

[*]は,状態動詞のタ形であるから,発話時と参照 時の関係は,表2から「R→S」.事象時と参照時の関係は,表 3から「E=R」となる.よって,発話時、事象時,参照時の関係 は「E=R→S」となる.

また,表には示していないが、ダロウ形は文法カテゴリーのモダリティーである 推量を意味する.本来はモダリティー に関する規則も作成する必要があるが,モダリティーを担う助動詞は多数あるた め,今回は「ル+ダロウ」のみ扱うことにする.[*]ダロウ形が,終止形と共に用い られると,未来の事象を推量をこめて述べる.つまり,発話時と,参照時の時間 関係は次のようになる.


ル+ダロウ形 S→R

以下に、表23から決定される時間的性質を, 例とともに 説明する.

1.[ル形]
状態動詞,内的動作動詞 : S=R=E
外的動作動詞,変化動詞 : S=R=E or S→R=E

 \begin{displaymath}\ \ \ \ \ \ ここに本がたくさんある. \hspace*{50mm} <状態動詞>
\\
\end{displaymath} (8)


 \begin{displaymath}\ \ \ \ \ \ 私は君の成功を祈る.\hspace*{58mm}<内的動作動詞>
\\
\end{displaymath} (9)


 \begin{displaymath}\ \ \ \ \ \ \ 彼は50mを泳ぐ. \hspace*{65mm}<外的動作動詞>
\\
\end{displaymath} (10)


 \begin{displaymath}\ \ \ \ \ \ \ 彼は、八時すぎに家を出る. \hspace*{45mm}<変化動詞>
\end{displaymath} (11)

状態動詞のル形は,現在の状態,内的動作動詞のル形は,現在の思考・感情を表して いる. [*]では,「ある」という現在の状態,例文9は,現在の思考を発話時から捉えてい る. [*][*]のように外的動作動詞・変化動詞がル形をとると,現在,または未来の事象を表す.

2.[タ形]
* : E=R→S

 \begin{displaymath}\ \ \ \ \ \ \ 彼らは彼のことを笑った.\hspace*{50mm}<動作動詞>
\\
\end{displaymath} (12)

状態動詞のタ形は,過去の状態,動作動詞,変化動詞は,過去の動作などの過去の出来事を,事象時 から捉えている.[*]では,「笑った」という過去の事象を,その時点にさかの ぼって捉えている.

3.[テイル形]
動作動詞 : S=R=E(P)
変化動詞 : E→R=S


 \begin{displaymath}\ \ \ \ \ \ \ 彼は本を読んでいる.\hspace*{57mm}<動作動詞>
\\
\end{displaymath} (13)


 \begin{displaymath}\ \ \ \ \ \ \ 窓が開いている.\hspace*{65mm}<変化動詞>
\\ \\
\end{displaymath} (14)

動作動詞のテイル形は,現在進行中の動作,変化動詞では,過去に発生した動作を発 話時から捉えている.[*]では,発話時において進行中の「読む」という動作を 捉えている.[*]では,過去に発生した「開く」という事象の結果を発話時か ら捉えている.


4.[テイタ]形
動作動詞 : E(P)=R→S
変化動詞 : E→R→S

 \begin{displaymath}\ \ \ \ \ \ \ 彼は本を読んでいた. \hspace*{56mm}<動作動詞>
\\
\end{displaymath} (15)


 \begin{displaymath}\ \ \ \ \ \ \ 窓が開いていた. \hspace*{65mm}<変化動詞>
\\
\end{displaymath} (16)

動作動詞のテイタ形は,進行中の動作,変化動詞は, 完了した動作の結果を,過去のある時点から捉えている.つまり,テイル形にお いて事象時と参照時を一つ過去にずらしたものとなる.[*]では,「読 む」という進行中の動作を過去のある時点から捉えている.[*]は,過去に発生 した「開く」という事象の結果を過去のある時点から捉えている.

5.[ル+ダロウ形]
* : S→R=E

 \begin{displaymath}\ \ \ \ \ \ \ 彼女は必ず来るだろう. \hspace*{50mm}<変化動詞>
\\
\end{displaymath} (17)

動詞のル形にダロウがつくと,発話時点で事象が未然であることを推量の意味をこめて 表す.[*]は,発話時において未然の「来る」とい う事象を捉えている.
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2002-03-07