本研究では「の」の交替現象を計算機上で解析するための規則を6種類作成した. 以下に規則1から規則6までを示す.
規則1は「の」が他の抽象名詞と交替することができない場合の規則で,後置す る単語によって分類される.ここで,接続助詞的用法である「ので」「のに」に ついては,順接複文を構成する「ので」と逆接複文を構成する「のに」として (西沢ほか 1995)など先行研究が多くあり,また形式上は学校文法における接続 助詞「ので」「のに」としても問題はないと考えられるために,本研究は対象外 とする.規則1を図9に示す.
規則2は「の」の係り先を考慮せずに交替先が決定できる場合の規則である.具 体的には形容詞が節を構成せずに単独で係っている場合の規則で,この場合の 「の」は「もの」と交替可能であるとする(図5).
規則3は「わけ」と交替する場合の規則である.具体的には「の」が「の
は
からだ」という形式で現れる場合,交替先を「わけ」とする(図
).
規則4は「ところ」と交替する場合の規則である.次に例文を示す.
例文12において,「の」が「ところ」と交替する要因として,係り先である「見 る」が挙げられる.「ところ」には空間的な位置や場所を表す場合と抽象的な事 柄についての位置や場面を表す場合があるが,その両方の意味を「見る」は格要 素とすることができる.このことから,「の」の係り先が視覚的な動作を表す用 言の場合は「ところ」と交替すると考えられる.ここでは,「見る」と「発見す る」を取り上げて規則とする(図5).
規則5は「の」の係り先が用言の場合の規則である.ここでは規則4によって定義 された用言以外のものに「の」が係っている場合は「こと」と交替可能であると する(図9).
規則6は「の」の係り先が名詞の場合の規則で,例文13のような場合である.
例文13では「の」は「もの」と交替可能である.このような形式の場合,「の」 の交替先は係り先である名詞の種類によって変化する.規則6を図9に 示す.
図9中,時詞は品詞カテゴリであるが,「ヒト」「抽象」は名詞の意味 的カテゴリを表している.本研究では名詞の意味的カテゴリとして日本語語彙体 系(池原ほか 1997)に掲載されている一般名詞意味属性体系を用いる.一般名詞 意味属性体系は,約40万語の一般名詞を意味的に2710のカテゴリに分類し,意味 属性としてラベル付けされている.さらに意味属性はis-a関係,has-a関係から 最大12段の木構造として体系化されている(図8参照).規則6 において「ヒト」は意味属性体系上の(#4 人)を表し,「抽象」は(#1000 抽象) を表している.