表4,5および8,9より, 文末表現変更の前後で意図が保たれたかどうか考察を行う.
情緒を9分類系で見た場合, 文末表現の変更前は平均24.5問,全体の合計では147問(61.3%), 文末表現の変更後は平均9.5問,全体の合計では57問(23.8%)で 目的の情緒が伝わっている.
また,情緒を5文類系で見た場合, 文末表現の変更前は平均31.5問,全体の合計では189問(78.8%), 文末表現の変更後は平均13問,全体の合計では78問(32.5%)で 目的の情緒が伝わっている.
目的の情緒が伝わらなかった割合を誤り率として見れば, 9分類系では文末表現を変更したことで誤り率が約2倍となっている. 9文類系,5分類系,いずれにせよ文末表現の変更後では 発話文の情緒があまり伝わっていないと言える. 特に図8,9からは 文末表現変更の前後での情緒の伝わり方の顕著な差がうかがえる.
目的の情緒が伝わらない原因として,以下の2つが考えられる.
まず1.について, 回答結果では,被験者が文末表現変更の前後で同じ情緒を選んでいる場合が多かった. これは,文末表現以上に発話の内容が情緒の判断材料となっている可能性が考えられる. 例えば,プレゼントをあげるという内容の発話の場合, プレゼントをあげること自体が《好ましい》等の情緒を 連想させてしまう,といった具合に,文末表現で情緒を表しても それが掻き消されてしまう事態が考えられるのである. また,発話内容ではないが,意図が〈拒否〉である発話文などは 文末表現を変えたところで〈拒否〉の意図がネガティブな 情緒を連想させてしまう,といった事態も考えられる.
次に2.についてである. これは情緒成分だけを基準に文末表現を選択したことに 方法的な欠陥があったと考えられる. 情緒成分は文末表現と情緒の共起関係を確率で表したものであり, 文末表現の出現回数も情緒成分の数値を左右する要因である. 例えば,1回しか出現していない文末表現と 10回出現している文末表現とでは,同じ情緒の情緒成分が同じでも 信頼性に差が生じる.本研究では情緒による選択において 情緒成分だけに着目し, 文末表現の出現回数を考慮に入れなかったため, 文末表現がうまく生かされなかったのではないだろうか.