next up previous contents
Next: 抽象名詞について Up: 抽象名詞で形成される表現の意味的類型化と翻訳規則 Previous: List of Tables

はじめに

自然言語処理の最大の問題点は、表現の構造と意味に関する解釈の多様性である。 機械翻訳においては,訳文品質低下の原因は,動詞や名詞の訳語選択の不自然性 と文の構造$\cdot $係り受けにある(麻野間ほか 1999)とされている.そこで,本研究で は日本語文において構造と意味に深く関係している抽象名詞を取り上げる.

従来の名詞の訳し分けの研究としては,意味属性を用いることで名詞の持つ多義 性解消の有効性を検証したもの(桐澤ほか 1997)があるが,一般名詞を対象にした ものである. 抽象名詞の用法の多様さを考えると一般名詞とは完全に切り離し, 個別の対応を行う必要があると考えられる. 抽象名詞の研究としては、「もの」 の語彙的意味と文法的意味の連続性を他の抽象名詞「こと」「ところ」と対照す ることで明らかにしたもの(佐々ほか 1997) や、「こと」が「名詞+連体助詞の +形式名詞コト」という環境に現われた場合に必須要素としての「こと」である 場合と、そうでない場合、中間的な場合とを述語により分類したもの(笹栗ほか 1998)等がある。これら抽象名詞に関する研究はそれぞれ対象としている抽象名 詞の用法を分析しているが、文中での意味的役割にはあまりふれられておらず, また機械翻訳を対象とはしていない.

本研究では抽象名詞「の」「こと」「もの」「ところ」「わけ」「とき」を対象 に,使用されている環境から意味を特定し,英語表現を決定する.その際に日本 語文中の使用環境から,抽象名詞を「語彙的意味をもつもの」と「文法的意味を もつもの」に分類し,さらに「文法的意味をもつもの」を「補助動詞的用法」と 「非補助動詞的用法」に分類する.これは,英語表現における基本的な役割を特 定するのに役立つ.ここで,「の」に関しては,交替現象を解析することで,そ の他の抽象名詞の翻訳規則を利用する手法を提案する.「の」の交替現象とは, 文中の「の」を,文意を変化させることなく他の語と置換できることである.

以下,第2章では抽象名詞について述べる。第3章では抽象名詞の翻訳手順を説明 する.第4章では抽象名詞「の」の交替現象の概要と計算機上で解析するための 規則を説明する.第5章では抽象名詞の翻訳規則を説明する.第6章で評価実験を 行い,第7章で考察を示す.



Noboru KURUMAI
2001-03-20