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「はっきり」「きっぱり」

(正解例1)
これまで明らかでなかった中国側の経緯がはっきり分かる。
(正解例2)
センターは「購入の意思がなければきっぱり断ること」と助言している。
(誤り例1)
小さな声だが、はっきり(きっぱり)決意を口にした。
(誤り例2)
これは旧暦の七月九日ときっぱり(はっきり)日時が定まっている。

5.28に類義語の組「はっきり」「きっぱり」の機械学習の分類結果を示す. 表5.29に類義語の組「はっきり」「きっぱり」の有意差検定に基づいた機械学習が参考にした素性を示す. 表5.30に類義語の組「はっきり」「きっぱり」の正規化α値に基づいた機械学習が参考にした素性を示す.




表 5.28: 「はっきり」「きっぱり」の分類結果
  データ数 再現率 適合率 F値
はっきり 702 0.94 0.92 0.93
きっぱり 702 0.92 0.94 0.93
総数 1404 0.93 0.93 0.93




表 5.29: 機械学習が参考にした素性(有意差検定:「はっきり」「きっぱり」)
はっきり きっぱり        
素性 頻度(p値) 素性  頻度(p値)      
素性2:し(直後) 274 素性2:対象語が文末  386      
  ( $ 1.18\times10^{-57}$ )    ( $ 1.20\times10^{-112}$ )      
素性2:ない(2単語後) 96 素性2:言い(直後)  32      
  ( $ 1.53\times10^{-26}$ )    ( $ 3.96\times10^{-9}$ )      
素性31:分かる 25 素性2:否定(直後)  31      
  ( $ 2.98\times10^{-8}$ )    ( $ 7.68\times10^{-9}$ )      
素性31:示す 20 素性31:断る  18      
  ( $ 9.54\times10^{-7}$ )    ( $ 7.45\times10^{-4}$ )      
素性31:見える 19 素性2:切っ(2単語後)  17      
  ( $ 1.91\times10^{-6}$ )    ( $ 7.63\times10^{-6}$ )      




表 5.30: 機械学習が参考にした素性(正規化α値:「はっきり」「きっぱり」)
はっきり きっぱり
素性 正規化 $ \alpha $ 素性 正規化 $ \alpha $
素性1:意見 0.64 素性2:言い(直後) 0.68
素性2:言う(直後) 0.64 素性2:口調(3単語後) 0.66
素性2:対象語が文頭 0.62 素性31:あきらめる 0.55
素性1:区別 0.54 素性31:断れる 0.55
素性31:説明 0.54 素性31:断ち切る 0.54

「はっきり」は「はっきりしない」という表現や「分かる」「示す」「見える」などの語が後に続くことが多い.「きっぱり」は「言い切る」「否定」「断る」のような語が後に続くことが多いとわかった.特に「断ち切る」「割り切る」のように「〜切る」という表現が多いことから「きっぱり」は「はっきり」に比べ強い意味合いで使われる語であることがわかった.「はっきり」幅広く使われ「きっぱり」の方が限定的な使われ方がされることが考察できた.

また,文献[6]によると以下のように書かれている.

 「きっぱり」と「はっきり」は,どちらも明確で確かな様子を表します.でも,態度に重点があるのか,発言内容に重点があるのかに違いがあります.「きっぱり」は「尋ねて来たら,きっぱりことわれば好い」(森鴎外『青年』)のように用います.断る態度が決然としているのです.取り付く島がありません.「きっぱり」は,「言う」「断る」「否定する」などの態度しか形容しません.いずれも,拒絶的な態度の形容です.だから,「きっぱり」の態度に出会うと,突き放されたようなショックを受けます.  一方,「はっきり」は,「洋食なら洋食,お蕎麦ならお蕎麦と,尋ねられればハッキリと喰べたい物を答えました.」(谷崎潤一郎『痴人の愛』)のように用います.別に答える態度が決然としているわけではありません.他との区別が明らかで確かな様子が発言内容から判断できるのです.「はっきり」は「言う」「断る」「否定する」などの動作の形容にも用いますが,「きっぱり」と違って,つねに発言の内容がほかと区別できるような明快さを持っているときです.「はっきり」はその他「分かる」「見える」「聞こえる」などの動作の形容にも使えます.いずれも内容が他と紛れることなく,確かに識別できるときに用います.

文献[6]と素性分析の結果を比較し同じ結果となったことを以下に示す.「はっきり」は「分かる」「見える」など形容する語が幅広くあり,「きっぱり」は「断る」「否定する」などの拒絶的な態度を形容する時にしか使われないということが同じであった.

文献に載っておらず,素性分析から新たにわかったことを以下に示す.「はっきり」は「示す」,「きっぱり」は「あきらめる」という語が後ろにくることが多いことが新たにわかった.また,文頭は「はっきり」が,文末は「きっぱり」が多いことがわかった.

文献に載っているが素性分析からは得られなかったことを以下に示す.「はっきり」の素性分析から「聞こえる」という素性はなかった.また,文献と違った点としては,文献には「きっぱり」は「言う」を形容するとあるが,素性分析からは「言う」は「はっきり」の後に続くことが多く,「きっぱり」は「言う」よりも「言い切る」という表現が多かったという結果となった.


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root 2018-02-28