(1)と(2)については第7.1節と第7.2節の誤り分析において示した.
(3)について説明する. 本手法では,修飾語句を含む格要素に対応していない.
たとえば,「太郎がおいしいご飯を食べる」という文と 「太郎がまずいご飯を食べる」という文を情緒推定する場合を考える. これらの文には図7.1がマッチする.
本手法では,名詞変数2に「ご飯」のみが適合し, 「おいしい」・「まずい」という修飾語句の情報は考慮されない. この場合,いずれの文においても判断条件「生理・近(太郎,ご飯)」と 「生理・離(太郎,ご飯)」を得る. そのため,同一の情緒名を出力する. しかし,おいしいご飯を食べる場合と, まずいご飯を食べる場合の情緒は明らかに異なることがわかるため, 少なくともどちらか一方は不正解となる.
用言「食べる」は生起する情緒が食べるものに依存すると予想できるため, 「おいしい」・「まずい」という情報は情緒推定において有益な情報である. そこで,修飾語句を含む格要素に対応した場合を考える. 「太郎がおいしいご飯を食べる」という文を情緒推定する場合, 判断条件「生理・近(太郎,おいしいご飯)」と 「生理・離(太郎,おいしいご飯)」を得る. 「おいしい」という語義から, 「生理・近(太郎,おいしいご飯)」は真となり, 「生理・離(太郎,おいしいご飯)」は偽となる. そのため,《好ましい》を出力する. これは妥当な出力といえる. 「太郎がまずいご飯を食べる」という文を情緒推定する場合も同様に, 「まずい」という語義から, 妥当な出力《嫌だ》を得ることができる.
このように,修飾語句などの情報を使用することにより, 情緒推定の精度が向上すると予想できる.