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分類3「受動パターンの助詞が不足」

第5章の予備実験の結果より,変換規則に「から」,「によって」を追加したが, それでも助詞が不足した.以下に誤り事例を示す.

(3a)
入力文:あの大リーガーの場外ホーマーには度胆を抜かれた。
出力文:あの大リーガーの場外ホーマーには [φが 度胆を 抜く]。
正解文:あの大リーガーの場外ホーマーが度胆を抜く。

以下に使用したパターンを示す.

能動パターン: $N1が N2の 度胆を 抜く$
受動パターン: $N1に/によって/から N2が 度胆を '抜く'.reru$
意味属性制約:$N1(*) N2(4人)$

使用した受動パターンの変数$N1$には,助詞「には」が存在しない.そのため, 名詞句「あの大リーガーの場外ホーマー」が受動パターンの名詞変数$N1$に適合 しなかった.入力文を正しく解析するには,受動パターンを「$N1$には」と する必要がある.

次に(3a)と性質の異なる助詞の問題を次の事例で考える.

(3b) 入力文:あの政治家はテロにより命を奪われた。

この入力文は次に示す2つの能動文に復元されることが考えられる.

復元例1:(組織が)テロで政治家の命を奪う。
復元例2:テロが政治家の命を奪う。

復元例1では,入力文に明記されていない「組織」という動作主が「テロ」とい う手段を用いて政治家の命を奪うと解釈できる.一方,復元例2では,「テロ」 という擬人化された主格が政治家の命を奪うと解釈できる. したがって,能動パターンと受動パターンの対として,少なくとも以下のパター ンが必要であり,さらにいくつかの受動パターンを追加しなければならない.

既存パターン
能動パターン: $N1が N2を 奪う$
受動パターン: $N1に/によって N2が/を '奪う'.reru$
意味属性制約: $N1(4人 *) N2(“タイトル” 2385生命現象)$
追加パターン
能動パターン: $N1が N3で N4の N2を 奪う$
受動パターン1: $N4は/が N3により N2を '奪う'.reru$
受動パターン2: $N4は/が N1に/から/により N3で N2を '奪う'.reru$
受動パターン3: $N4は N1の N3に/から/により N2が/を '奪う'.reru$
受動パターン4: $N1に/から/により N3で N4の N2が/を '奪う'.reru$
意味属性制約: $N1(4人 *) N2(“タイトル” 2385生命現象) N3(*) N4(*)$

7.1の分類3に該当する入力文を,助詞の追加で意味を正し く解析できるものと,できないものに分類する.助詞の追加だけでは意味を正し く解析できないものとは,助詞の追加により,分類6「格要素の個数の変化」, および,分類7「文の曖昧性」の問題へと転化するものである.

助詞の追加で解析できるもの
・この文書には最終条件が含まれる。
・その件については銘々の判断に任せられた。
・その雑誌のクイズにはたくさんの回答が寄せられた。
・その事件については裁判所の判断に委ねられた。
助詞の追加だけでは解析できないもの
・あの政治家はテロにより生命を奪われた。
・昨日その工場で役人による抜き打ち監査が行われた。
・今日の交通スト約9万人の通勤客が足を奪われた。
・その言葉は別の意味にも用いられる。
・これは速度の意味用いられる。
・このシステムにより交換機からデータが収集される。

太字で強調した助詞は,助詞が受動パターンに存在しなかったものを 表す.本実験では,「により・による・で・には・については・にも」の助詞が 不足していることが分かった.


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平成22年2月11日