文または文章が, 《A》がベースラインより高く《P》がベースラインより低いパターンに 適合した文を1文でも含む場合に,「きつい」と判断した. よって,書き手が「やわらかい口調」で書いたにも関わらず 「きつい」と判断された直接の原因は,そういったパターンに 適合する文を含まないことであるが, 書き手が「やわらかい口調」として書いたにも関わらず, 何故そういった文を含むのかを分析する.
「やわらかい口調」で書かれたが「きつい」と判定された文または文章は, 以下の3つのケースが考えられる.
「きつい口調」で書かれたが「きつくない」と判定された文または文章の 内訳を表45に示す.
具体例を以下に示す.
大勢の観光客の目に触れる可能性のあるものだから、書いた内容によっては罰金もしょうがないよ。 (批判文) |
「しょうがない」という表現は,文脈にも依るが, 相手への同情を表す言葉であると言える. そのため,文末表現がある程度きついものであったとしても, 相手にきつい印象を与えないと考えられる.
今週の土曜忙しい〜?
もしよかったら海行かない? 場所は白兎海岸だよ。 (勧誘文) |
「場所は白兎海岸だよ。」という文に適合したパターンである 【CLNだよ。】の情緒成分が《P》:0%,《A》:33%であり, きついと判定される条件を満たしている. このパターンは名詞述語のパターンであり, 述語として使われる名詞によって情緒性が大きく変わると考えられる. 例えば,「迷惑だよ。」,「邪魔だよ。」,「お前なんかゴミだよ。」などといった台詞が パターンの元になっていれば,《A》が強くても妥当である. しかし,述語部分に「白兎海岸」のような,攻撃性の無い 言葉が来た場合には,《P》:0%,《A》:33%という 情緒成分は妥当とは言えなくなる.
この例のように名詞述語のパターン(変数としてCLNをもつパターン)は, 元となった台詞に対する分析を行う必要がある.
海水浴いこうぜ。
今週の土曜に白兎海岸で! (勧誘文) |
「海水浴行こうぜ。」という文に適合したパターンである
【CLV^
うぜ。】の情緒成分が《P》:58%,《A》:17%である.
動詞述語のパターン(変数としてCLVをもつパターン)は,
前述のCase 2の例のように述語部分によって情緒性が大きく変わるとは
考えにくいため,この情緒成分に特に疑わしい点は見当たらない.
これを念頭に置いて考えた結果, きつさ判定に用いたベースラインの値に問題がある可能性がある (勧誘文のベースラインは,《P》:63.7%,《A》:12.5%). 表30からも分かるように, やわらかい口調と中立の口調の情緒的傾向がほとんど同じであるため, 実質的には「きつい口調」と「やわらかい口調」の比率が 「1:2」という状況でベースラインを作成したことになる,とも言える. 勧誘文および批判文それぞれについて, 文集合全体の平均をベースラインとして扱うという手法を用いたが, このベースラインの定め方にも検討の余地がある.