現在, 意味としてまとまりをもつ原言語の表現をパターンとして捉え,目的言語の表現と対応づける方法 [1]が注目されている.最近,日英翻訳でこのようなパターン翻 訳に必要な文型パターンを収録した「日 本語語彙大系[1]」が出版された. しかしこの辞書では,日本語表 現と英語表現の対 応が1対1となっているという問題点がある. そのため,原文等を考慮した時,対応している表現の中に適切 な訳語表現がない場合がある.
現実の言語表現では,1つの原言語の表現に複数の目的言語の表現が対応してい る.翻訳家が翻訳する場合,複数の目的言語の表現の中から,原文に応じて最も 適した表現を選ぶのが普通である.パターンとして考えると, 1対複数の関係で対応づける必要がある [2].
パターンを用いた柔軟で意味的に適切な翻訳を実現する方法の1つとして, 意味類型を介して1つの原言語のパターン に複数の目的 言語のパターンを対応づける方法 [3][4][5]が考えられる.しかし 複数の目的言語の中から,一意に決定する手法が必要となる.
そこで本研究は,まず比較文型を例としてとりあげ, 意味類型を用いて代表的な意味,付加的な意味,品詞に着目して パターンを対応づける仕組みを作成する. また訳語の表現を一意に決定する手法として, パターンに含まれない単語や原文中の変数に着目し,複数のパターンの 候補の中から原文に応じて訳語のパターンを一意に絞り込む手法を提案する.
本手法の性能調査のため,対訳コーパスを用いて性能評価を行った. その結果, 56%の割合で,パターンを原文に応じて一意に絞り込むことができた. またデフォルトパターンとの比較を行った結果,原文から絞り込んだパターン の方が適している割合が高いことがわかった. これにより意味類型を用いて最適なパターンを選択できる可能性が見えたと言え る.
以下,第2章では,研究の背景と意味類型の必要性について述べる.第3章では, 本研究で用いる用語について説明する.第4章では, パターンの作成について説明する. 第5章では,意味類型を用いたパターン対応方法を説明する.第6章では,原文に応じ てパターンを絞り込む方法について説明する. 第7章では,評価実験を行い,第8章で考察を示す.