実験の結果不正解となったもの、つまり評価2〜4に該当する具体例をそれぞれ あげなが ら、今回提案した位置関係解析ルールについて考察する。
・評価2の例
「船の上をカモメが旋回している」
評価2に該当するこの例文に対して今回のルールを適用した場合、
得ることができる位置関係は、以下のような関係である。
「カモメが船の上に広がる空間のどこかに存在している」
(正解:カモメが船の上に広がる空間の空中に存在)
つまり、「カモメ」が「船」の上に支持されているのか、それとも「船」のうえを
飛んでいるのか判断がしきれない。よって図4のような2種類の位置関
係(左が正解、右は不正解)が可能性として残ってしまい、正解を含んではいる
ものの不正解として扱われる。
これに類似したものとして、「山の上を飛行機が飛んでいる」という例がある。 ルール上で位置関係を解析していくうえで、各例文中の2つの対象はそれぞれ 持っている特性も同様(表3参照)であり、求まるべき位置関係も同 様のタイプである。しかし、この例文の場合は次のような位置関係が 導かれる。
「飛行機が山の上に広がる空間に支持されることなく存在している」
よって、この例の場合は本手法で正解を得ることができる。
一方が不正解、もう一方が正解を得られる理由として、前者の例文中の動詞「旋回 している」が、その語句単独では位置関係を考えるうえで有用な情報を持たない のに対して、後者の例文中の動詞「飛んでいる」は対象の状態を明確に提示して いるということがある。
確かに「旋回している」という語句は、単独では位置関係に有用な情報を持たな いが、我々が「船の上をカモメが旋回している」という文を見れば、普通「カモ メ」は「飛んでいる」と解釈するであろう。それは「カモメ」と、「旋 回している」という語句同士の一般的な(常識的な)意味的関連によって「カモ メは飛んでいる」と判断されている。よって、このような語句のあ いだの常識的な意味的つながりに注目し、ルールを改良していくことが有効では ないかと考えられる。
・評価3の例
「教室のうしろに箱が置いてある」
この例の場合、本手法では次のような位置関係を得ることとなり、全く見当違い
の不正解となる。
「教室の外側の後方に箱が存在する」
(正解:教室内部のうしろ側に箱が存在)
この例で正解が得られない最も大きな理由は、今回提案したルールのなかでは、 2つの対象間の位置関係において、包含関係が考慮されていないことである。
対策としては、当然まずは2つの対象間の位置関係に包含関係を考慮することが 先決ではあるが、それだけではなく、対象同士の一般的(常識的)な関係を考慮 に入れられるようにする必要が感じられる。
・評価4の例
「富士山が雲の上にそびえている」
これは、「雲」のもつ性質と「富士山」のもつ性質の間に矛盾が生じるために位
置関係を得るに至らない。
具体的には、「雲」が対象を支持できる特性を持たな いのにも関わらず、「富士山」は支持されて存在するという特性をもち、両者の 特性の間に矛盾が生じてしまい、位置関係を得られない。
また、位置関係を得られない場合としてもうひとつは、文中に表現された対象の
持つ性質が多様であったり特殊であったりする場合がある。
例えば「草」という対象は、「広場の芝生」のような意味をもつ場合と、単純に 単独の植物としての「草」という意味をもつ場合がある。このような複数の異な る性質を対象が持つ場合は、現在のルールでは対応できない。対策としては、対 象同士の一般的関連、あるいは対象と動詞との関連に注目することが有効ではな いかと思われる。
また、「影」「跡」や、「坂」などの対象は今回扱ったようなパラメータだけで はそれらの特徴が表現しきれないために、ルールが適用できない部分が出てきて 位置関係を得ることができない。 このような対象については、やはり新しくパラメータを追加していくのが対応策 となるのではないかと思われる。