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「おかげ」「せい」「ため」

(正解例1)
「大勢の方が快く寄付してくださったおかげ」と感謝する。
(正解例2)
本人も「負けたのは自分のせい」と何度嘆いたことか。
(正解例3)
このため、昨年6月に法律が改正されました。
(誤り例1)
福祉予算が削減されたり、スウェーデンの主張が通らなかったおかげ(ため)で、景気回復の遅れも原因らしい。
(誤り例2)
早起きのせい(おかげ)か、60歳を超えてから一度も風邪をひいていない。
(誤り例3)
新進党にさまざまな批判が集まっているのも、切り替えができていないため(せい)だ。

5.1に類義語の組「おかげ」「せい」「ため」の機械学習の分類結果を示す. 表5.2に類義語の組「おかげ」「せい」「ため」の有意差検定に基づいた機械学習が参考にした素性を示す. 表5.3に類義語の組「おかげ」「せい」「ため」の正規化α値に基づいた機械学習が参考にした素性を示す.




表 5.1: 機械学習の分類結果(「おかげ」「せい」「ため」)
  データ数 再現率 適合率 F値
おかげ 4186 0.90 0.88 0.89
ため 4186 0.95 0.95 0.95
せい 4186 0.87 0.88 0.87
総数 12558 0.90 0.90 0.90


表 5.2: 機械学習が参考にした素性(有意差検定:「おかげ」「せい」「ため」)


\scalebox{0.7}{
\begin{tabular}{\vert l\vert c\vert l@{ }\vert c\vert l\vert c\v...
...45}$) &&($1.35\times10^{-13}$) && ($1.09\times10^{-27}$)\\ \hline
\end{tabular}}



表 5.3: 機械学習が参考にした素性(正規化 $ \alpha $ 値:「おかげ」「せい」「ため」)


\scalebox{0.8}{
\begin{tabular}{\vert l\vert c\vert l@{ }\vert c\vert l\vert c\v...
...性1:チーム&0.61&素性1:お前&0.49&素性7:の&0.53\\ \hline
\end{tabular}}


「おかげ」はまず文頭や文末にくることが多いが文頭で使われるのは「おかげ」だけである.「せい」は「〜せいか」「〜せいもある」「〜せい?」という表現が多い.「ため」は直後に読点がくることが多く,「ために」や「このため」といった表現が多かった.「おかげ」は「感謝」「できる」などプラスの表現の語があり,「せい」は「不況」「負ける」などマイナスの表現の語とともに使われる.「ため」はその中立であり,「〜のため死去。」のように理由を表す表現として幅広く使われる.また,「ため」には「防ぐため」「〜をするため」のように目的を表す用法も多く使われる.「ため」はデフォルト素性の正規化$ \alpha $ 値が高かったことから,特徴のない文の場合は「ため」が使用される傾向にあるとわかる.「おかげ」は「皆さん」「先生」,「せい」は「自分」「お前」などの人物を表す語とともに使われるが,「ため」は人物が続くことは少ない.

また,「使い方の分かる類語例解辞典」[5]によると以下のように書かれている.

 「おかげ」は, 他から影響を受けた結果, 望ましい事態が成立したことを表し, 話し手の感謝の気持ちを伴う. 反対に, 望ましくない事態が成立したことを表すのは「せい」で, その責任を自分以外の他者(人や物事)に押し付ける意味合いがある. 望ましくない事態の成立に「おかげ」が使われることもある. 本来なら「せい」を使うところにわざと反対の意味の「おかげ」を使い「せい」を使うより皮肉・非難の意味合いが強まり, 話し手のマイナス感情を強調することになる. 「ため」はマイナス感情もプラス感情も伴わないため, 望ましい事態か望ましくない事態下に関わらず広く中立的に用いられる表現である. 「おかげ」「せい」に比べて, 人物に直接には続きにくい. また目的を表す用法もある.

文献[5]と素性分析の結果を比較し同じ結果となったことを以下に示す.素性分析から「おかげ」は「感謝」「元気」などのプラス感情の語が多く,「せい」が「不況」「負ける」などのマイナス感情の語が多かったため,「おかげ」はプラス感情の文,「せい」はマイナス感情の文で使われ,その中立が「ため」であるということが分析からわかり,文献と同じ結果となった.また,「ため」は「おかげ」「せい」に比べて,人物に直接続きにくく,目的を表す用法が多いということも同じであった.

文献に載っておらず,素性分析から新たにわかったことを以下に示す.文頭になるのは「おかげ」だけであったり,「〜せいもある」,「〜ため、」のようによく使われる用法など,多くのことがわかった.

文献に載っているが素性分析からは得られなかったことを以下に示す.「おかげ」を皮肉・非難の意味で使う用法は素性分析からはわからなかった.また,文献と違った点としては,「せい」は文献には「自分以外の他者に押し付ける」とあるが,素性分析からは「自分」にも使われるという結果となった.



root 2018-02-28