この子供がおもちゃを欲しがっていたとすると,「目標実現(子供, おもちゃ)」が成立し,1文目からは《喜び》が推定される. しかし,2文目においても判断条件が成立するので,「欲しがっていたおもちゃを壊して喜んだ」という推定になってしまい,2文目の推定は誤りとなってしまう.
図2.4のパターンが有効なのは,例えば「子供が気に入らないおもちゃを壊す」のように,不要なものを対象とする場合である. したがって,2文目に対しては「《喜び》とは言えない」と出力したい.
したがって,図2.3の判断条件の場合,《喜び》が推定されるためには,「子供」と「おもちゃ」が「接近」の方向性であることを確認し,図2.4の判断条件の場合,《喜び》が推定されるためには,「子供」と「おもちゃ」が「乖離」の方向性であることを確認する必要がある.
先行研究[3]では二者の関係の方向性である「接近」と「乖離」の関係に辞書を改良した.
図2.5は先行研究[3]で改良された判断条件の例である. 〈獲得〉は《喜び》の生じる原因の一つである. 〈獲得〉は単なるラベル名であり,具体的には「目標実現に必要な物事を努力して手に入れた」という特徴を指す. 図2.5のパターンと意味属性制約を用いることで語義が解析されるのだが,その語義は下線部しか対応していない. そこで,下線部以外の要因を大まかにカバーするように判断条件「目標実現・近(1, 2)」が追加された[3].
判断条件の示す述語は,与えられる文の外の情報に基づき真偽が問われる.
図2.6は図2.5の判断条件の利用例である. 図2.6では,「子供がお酒を叔父に貰う」という文において,判断条件は「目標実現・近(子供, お酒)」と単一化される. 「子供」と「お酒」は「接近」の関係にあると言えないため,判断条件は成立せず,《喜び》は推定されない.
一方,「父親がお酒を叔父に貰う」という文において,判断条件は「目標実現・近(父親, お酒)」と単一化される. 「父親」と「お酒」は「接近」の関係にあると言えるため,判断条件は成立し,《喜び》が推定される. この文において《喜び》が推定されるには,この述語を「父親はお酒を必要としており,強く手に入れようとする傾向がある」と暗に解釈し,この傾向の強さが常識的に認められる必要がある. こうした常識は,人間の場合,日常生活で養われている. しかし,計算機の場合,常識を手作業で数値化したり,ブログなどから自動収集したりすることで処理することになる.
先行研究[3]では,日本語語彙大系の結合価パターン14,819件に対し,判断条件を含む11,712セットの情緒属性の付与を行った. しかし,この「接近」と「乖離」の関係のみでは,カバー出来ない判断条件が不明確なまま1,600件残っている.
図2.7は,先行研究[3]で「保留」と付与された,判断条件が不明確な例である. 〈無計画〉は,「目標実現に有効な計画を生成できなかった」という情緒原因の特徴のラベル名である. 従来の判断条件では,付与が不可能なため,「保留」と付与されている. そこで,本研究では,「保留」と付与されたこの箇所を再分析し,補修を行う.