実験に使用した日記コーパスは,日記を書いた話者の視点から書かれており,情 緒主=話者である,という前提の元での情緒主の省略が多い.
これに対して,作成した情緒属性付き結合価パターン辞書は「が
を愛好
する」のような客体的表現の中での関係(情緒主:
,情緒対象:
,情緒
名:《好ましい》)を重視して情緒タグ付与を行ったため,主格や目的格が省略
された文に対する情緒推定には問題がある.
例として,「は
が厭だ」というパターンの場合を考える.辞書化は,「情
緒主
は情緒対象
のことが《嫌だ》」という考えで行われる.
しかし,日記コーパス中にはこのパターンに適合する「は厭だ」という節が
見られる.この節は情緒主が省略された形で,「情緒主=話者は情緒対象
が
《嫌だ》」という文である.例に上げた結合価パターンでは,「は格」が情緒主
として定義されているが,情緒主の省略された文では,「は格」が情緒対象となっ
ている.このように,「は格」,「が格」などの定義が,格要素の省略によって
違ってくるため,正確に情緒対象を捉えることができない.