6文の中で,実験対象文となるのは第1文と第2文,及び第4文である.
第1文から情緒推定を行う.第1文で生起する情緒は回答では《期待》に3票,《なし》に3票,《喜び》に1票であった.上位2位を正解とするので,《期待》と《なし》を正答とする.
では,第1文の日記著者の下線部(1)から結合価パターンを照合すると,「(4人)が(*)と思う」であり,情緒属性は第二稿,第三稿共に《なし》である.よって《なし》が適合するため,第二稿,第三稿の辞書ともに 正解である.
第2文の推定においては,正解回答では《期待》に4票,《なし》に2票,《恐れ》に1票 であったため,正答を《期待》あるいは《なし》とする.次に,下線部(2)から結合価パターンを照合 すると,「(3主体)が(3主体)に電話する」が適合する.情緒属性は第二稿では《なし》,第三稿では情緒主が,生起する情緒が〈協力〉による《期待》である.
ここで,第三稿には情緒属性が付与してあるので前提条件の判定を行う.〈協力〉の条
件は,
A)〔他者が存在〕,
B)〔他者は信頼可能〕,
C)〔行動は情緒主に有益〕
の3つである.第2文の「旅行会社」を他者とすると,A)とB)の
条件は連想関係[8]からこれを満たし,C)は行動(電話する)が第
1文から有益であるので,条件全てを満たす.
よって第三稿の出力は〈協力〉による《期待》となり,正答と適合する.また,第二稿 の出力《なし》も正答と適合するので正解である.
最後に第4文の推定を行う. 回答の上位2位は,《悲しみ》に4票,《期待》に3票であったため,正答は《悲 しみ》と《期待》である. 次に,下線部(3)から結合価パターンは「(3主体)が (3主体)に(*)と言う」が適合する.第4文では用言が受動態であるので,ここ では情緒主についての情緒属性を検出する.の情緒属性は第二稿は《な し》.第三稿は〈信頼〉による《好ましい》と,〈不信〉による《嫌だ》である.
ここで,〈信頼〉の前提条件は,
a)〔他者が存在〕
b)〔他者は信頼可能〕
c)〔行動は情緒主に有効〕
の3つであり,a)とb)の条件は先のA)とB)の条件と同様で,これを満たす.c)は
行動が「キャンセル待ち」だとすれば,文脈上より不適切である.よって条
件を全てを満たさないために〈不信〉は適用されず,《好ましい》は出力されない.
また,〈不信〉の条件は,
a)〔他者が存在〕
b)〔他者は信頼可能〕
c')〔行動は情緒主に無益〕
であり,a)とb)は〈信頼〉のものと同様であるので割愛する.c')について,行
動が「キャンセル待ち」であり,また文脈上より不利益な行動であるのでこ
れを満たす.
よって,第三稿の出力は〈不信〉による《嫌だ》である.
正答と比較すると,両辞書ともに不正解の出力である.
しかし,人手によって《悲しみ》と判断された場面において,《嫌だ》と出力さ れたことで,辞書の付与不足あるいは付与ミスが残っていることがわかった.