位置関係の構成においては、方向の決定が第一条件である。この決定には観察 者(話者)の視点が問題になる場合とならない場合の2つのパターンが存在する。 ここで重要となるのが「方向概念」であり、次の2種類を定義する。
1. 空間が持つ方向概念
我々が存在している地球上の空間には重力が存在する。対象の位置関係をイメー ジしようとするとき頭のなかに描き出された空間にも、やはり無意識のうちに重 力という感覚を持ち込んでいるであろう。この「重力」と大きく関わるのが上下 方向の概念である。イメージを作ろうとする空間には重力という概念があり、そ れは「上」、あるいは「下」という方向を作り出す。つまり、空間は「上」、 「下」の方向概念を持っていると考えられる。
2. 対象が持つ方向概念
対象は多くの場合、それ自身が何らかの「方向」を持っている。例えば「テレビ」 という対象を考えると、話者の視点に関係なく「上」、「下」、「前」、「後」 のような方向がはっきりと決まる。 このような話者の視点に影響されない、方向的特徴を対象の持つ方向概念として 適用する。 逆に、「ボール」などのように全く方向概念を持たない対象も存在する。
例として「テレビの前の箱」を考えてみる。この場合「テレビ」は位置関係に おいて基準となり(基準対象物)、また「前」は方向関係を提示する語句(方向 提示語句)となるのだが、この「前」という方向概念を「テレビ」が持っている ために観察者の視点に関係なく方向が決まる。さらに「上」、または「下」の方 向関係ならば、その空間自体に方向概念があるため、基準対象物の方向概念にも 関係なく方向が決まる。
つぎに、「箱の前のテレビ」を考えてみる。この場合、基準対象物である 「箱」は「前」という方向概念を持っていない。そのため、方向を決めるには観 察者の視点が必要になる。また、方向関係語句の「手前」や「向こう」の持つ概 念を対象が方向概念として持つことはないので、この場合も観察者の視点が必要 となる。よって、これらの場合は観察者の視点を定めることで方向の決定が可能 になる。(図1参照)