具体例を用い、3.1で述べた流れに沿って位置関係の導出を行う。
例1) 自転車のうしろに荷物を載せた
例1の場合、注目する2対象は「自転車」と「荷物」で、方向提示語句
は「うしろ」である。位置関係における基準対象物は「自転車」となる。
また、2対象それぞれが持つ位置関係に関わる特徴は表1のように定義する。
この結果、位置関係は以下のように判断される。
「自転車の上面うしろ側に荷物が支持されて存在している」
例2) ビルの上にへリコプターが飛んでいる
例2の場合、対象は「ビル」と「へリコプター」で、「ビル」が基準対象であ
り、方向提示語句は「上」である。
1)基準対象「ビル」は方向概念を持っており、観察者の視点に影響されること
なく「上」という方向が決まる。
2)用言「飛んでいる」からは、2対象間の位置関係に関する情報は得られない。
3)したがって、「上」に対して方向領域の概念を適用し、基準対象「ビル」に対して
「へリコプター」の存在しうる領域を得る。また、方向提示語句が「上」である
ため、この場合は距離特性は適用されない。
4)用言「飛んでいる」より、「へリコプター」が何にも支持されることなく存在して
いるという情報が得られる。
この結果、位置関係は以下のように判断される。
「ビルの上方向に広がる空間にへリコプターが支持されることなく存在し
ている」
例3) 木の手前にボールがある
例3の場合、2対象物は「木」と「ボール」で、「木」が基準対象物であり、方向 提示語句は「手前」である。
1)まず方向を決めるが、「手前」という方向概念を対象自身がもともと持つこと
はありえないので、観察者の視点を仮定することによって、基準対象「木」に対
して「手前」という方向が決まる。
2)用言「ある」からは、2対象間の位置関係に関する情報は得られない。
3)したがって、「手前」に対して方向領域と距離特性の概念を適用し、基準対象
「木」に対して「ボール」の存在しうる領域を得る。
4)「ある」からは、対象の状態に関する情報が得られないので、対象の特徴
に注目する。「ボール」は支持されて存在するという存在特性を持つことから、
ここまでに得た「ボール」の存在しうる領域に対して、「木」の「手前」に広が
る空間の空中に存在することはないと判断できる。
この結果、位置関係は以下のように判断される。
「木と観察者の間の空間の中の「木」の近くにボールが支持されて存在している」