修論・卒論の発表会対策
                         H12.1/27  池原 悟
 
1.プレゼンテーション対策
(1)何をプレゼンテーションするのか
 発表のポイントは、以下の3点を分かってもらうことにあります。
  @自分の研究がどんな意味のある研究であるか、
  Aそこで、何に着目して、どんな方法(アイディア)を考えたか、
  Bそれによって、どんな成果(知見)が得られたか
 
 優れた研究であるほど、これらの点が単純明快に言えるのが普通です。計算の仕方や実験の仕方など、その他のことは、これら3点を納得してもらうためのもので、実験や計算の複雑さそのものには大した価値はありません。
 発表原稿とOHPは、上記3点が明確に示すようになっているかどうか、それは、どの部分とどの部分であるかを確認しておいてください。
 
(2)大きな声でハキハキ堂々と
 今年の卒論・修論の研究は、程度の差はありますが、すべて、研究としての成果(新しい知見)が得られております。自信を持って発表に望んでください。自信の程度は、声の大きさと発表の態度に良く表れます。大きな声で話してください。人をびっくりさせるくらい大きな声でかまいません。
 大きな声で話しているつもりでも、内容に自信のないところや、説明のしづらい部分でうまく話せるかどうか自信のないところでは、自然に声が小さくなってしまいますから、そのような部分がないかどうか点検しておいてください。
 
(3)しっかりした視線で
 天井の方をきょろきょろしながら、聴衆には上の空で話している人がありますが、自信なさそうに見えます。会場には、よそ見をしたり、自分の仕事をしている人もいますが、熱心に聞いてくれる人が必ずいます。熱心に聞いている人を2〜3人見つけて、順番にその人に向かって話すようにすると良いと思います。相手と目線が合っても、すぐに目をそらしたりしないで、目線で一呼吸「分かっていただきましたか」と問いかけるつもりで話すと良いでしょう。同じ人ばかり見て話していると、見られている方も目が離せなくて疲れますから、適当に、見る相手を変えてください。
 
(4)OHPは見やすく
 みなさんのOHPは、文字の大きさなどほぼ良くできていると思いますが、以下の点を点検してください。
 @OHPシートは横長であるのに対して、光の当たる面は、正方形です。横方向の文字が切れ  ないよう注意してください。左右の端は、3cmくらいは空けましょう。
 A大切なところに、色を付けるとOHPは引き立ちます。赤、青、緑の色は引き立ちますが、  黄色はよく見えません。紫も黒と区別しにくい欠点があります。なお、あまりごてごてとな  らないよう色づけしてください。1枚のOHPで、数カ所、色づけする程度が適切です。
 B数行のOHPを写しながら、OHPに書いてないことをしばらくはなしている人を見かけま  すが、そのようなとき、聴衆は、どこを見て良いか分からず、目線は宙に浮いて誌まします。  話すことのキーワードOHPでも示すようにしてください。そうしておけば、原稿から離れ  て話しやすくなります。
 
(5)指示棒は要所要所で
 指示棒は有効に使ってください。画面に書いてあることすべてを指示棒で示す必要はありません。1画面で2〜3回、軽く説明箇所を示すだけで十分です。
 また、指示棒でスクリーンを叩いたり、ある示したい範囲をこすったりして、音を立てる人があります。そのような場合、本人は一所懸命なのですが、聴衆は、スクリーンが痛むのではないかと気になり、話に集中できなくなります。
 
(6)あらかじめ時間調整のための工夫を
 発表が持ち時間を超えると嫌われるのにたいして、むしろ、少し時間を余して終わる方が好感を持たれます。困ったことに、本番では、OHPの調整やマイクの引継などで、進行上、予定の講演時間が採りにくなることがよくあります。また、発表中、言い直しなどで時間をロスることがあります。練習の時、制限時間ぎりぎりだったとすると、余裕がありませんから、このようなとき焦りが生じます。一度焦り始めると、益々、スムーズに行かなくなって、さらに時間をロスすることになり、結局、話の流れがよく分からない発表になってしまうことになります。
 このようなときのために、
   「・・・は、この図のようになりますが、詳細は、時間の関係で省略します。」
   「・・・についての詳細は、予稿集をご覧下さい。」
などと言って、とばせるところを、あらかじめ、1〜2カ所、決めておくと安心です。
 
(7)発表は予定の範囲で
 何回も練習してなれてくると、発表の途中で頭が回り始めますから、予定していなかったことを思いついて付け加えて話してみたくなったりします。しかし、それはやめましょう。みなさんの発表は、いずれも時間ぎりぎりに内容が詰まっています。予定以外のことを付け加えると、時間に追われるようになるだけでなく、話のリズムが狂う可能性が大です。予定していた内容を計画通りに話しきることに努めて下さい。
 
(8)壇上ではゆったりと
 壇上で話しながら、そわそわ歩き回るのは良くありませんが、一カ所に直立不動で立っているとのも良くありません。発表者の影になってOHPの見えない人が困ります。そのような人に気を遣ってゆったり動けば、丁度良い程度の動きになります。
 
(9)本番では緊張感を持って
 みなさんの発表は、回を重ねるにつれ立派になってきました。発表になれることは大切ですが、なれてくると、次第に緊張感が薄れてくることがあります。運動選手も本番で緊張感が持たないと良い成績が出せないと言われています。本番では、それが最良の出来となるよう、気を引き締めてください。
2.質問対策
(1)まず、ハキハキと
 まずは、ハキハキと答えることが大切です。質問が終わってもしばらく沈黙している人がありますが、沈黙は良くありません。答えがすぐに出てこないときは、相手の質問をオウム返しに、「・・・は、どんなことかと言うご質問ですね。エーそれは、・・・」などと言って、時間を稼いで、その間に答えが見つからなければ、「申し訳ありませんが、よく分かりません。」と、わびてしまって結構です。
 
 また、質問者が質問中でも、必要に応して「はい」を連発してかまいません。要は、「打てば響く」の感じを与えることが大切です。
 
(2)最初に要点を
 質問では、まず、端的に結論を答えることが大切です。そのあと、詳細と質問と関連する事柄について思いついたことがあれば、補足説明して下さい。学会と違って、公聴会では、発表者が立ち往生しても、担当教官が支援することはできません。見殺しにされます。
 
(3)質問の意味が分かるまで
 質問の意味が理解できなくて、うろうろしている人があります。そのときは、
   「質問の意味がよく分からなかったのですが、もう一度、言っていただけませんか。」、
   「ご質問の意味は、・・・と言い意味ですか」
などと、理解できるまで、何回でも聞き直して下さい。
 聞き返すことは、恥ずかしいことではなく、むしろ、聞き返すことによって、発表者が、質問に正確に答えようとしているのだと言うことが相手に伝わるため、好感が持たれます。
 
(4)的はずれの質問にも丁寧に
 的外れの質問の時、うろうろする人があります。的が外れていると思ったら、「この研究は、こういう研究なので、質問されている内容についてはよく分かりません。」などと、丁寧に答えて下さい。
 
 学会の発表では、専門的で急所を突いた質問が出されますが、卒論・修論発表会では、聴衆は専門外の人ですから、的外れの質問や当たり前のことを尋ねる質問が出されると予想されます。これは、やむを得ないことで、分野が違えば、このテーマは、何をしようとしているか、何のためそんなことをする必要があるのか分からなくても仕方ありません。自分は、発表の中で、その点もちゃんと話したのだから、分かっているはずだと思ってもだめです。実際は、聞き逃したり、聞いていても分かっていないことが多いのです。
 
 このことを理解しておかないと、「まさかそんな単純なことを聞いているのではないだろうから、質問の趣旨は、別のことだろう」などと思ってしまい、質問されている意味が分からなくなってしまうことがあります。また、質問の意味が分かったとき、「なーんだそんなことか」などと思ってはいけません。間違っても、こんなことは当たり前で、それを知らない相手が悪いのだというようなそぶりを見せないで下さい。
 的はずれの質問だと思っても、相手の状況を考えて質問の内容を理解し、丁寧に答えて下さい。
(5)答えられないとき率直に
 答えるべき質問に答えられないときは、いい加減な答えをせず、明確に分からないと言って下さい。難しい質問なら、「大変難しいご質問で、よく分かりません。」と言って良いのです。
 昨年までの発表を見ていると、分からないことをごまかすために、関係のない答えをしたり、わざと質問をはぐらかすような、答え方をする人がたくさんいました。質問をはぐらかしていることは、傍目で見ていてもすぐ分かるもので、質問者だけでなく、聴いている人もむかついてきます。このような場合、
 
   「その点は、よく考えていませんでしたが、」
   「その点は、よく調べていないので分かりませんが、」
 
などと明確にお断りした上で、なぜ、分からないのかを付け加えたり、「その点は分からないが、この点ならこうです」などと、関連する事柄を説明するとなお良いでしょう。補足することが思い当たらないときは、「その点は、よく考えていませんでしたので、今後、調べてみたいと思います。」と言えば良いでしょう。
 
(6)自分の方法や結果に固執せず
 素人目から見た質問や意見の中には、はっとしたり、なるほどと思ったりするものがよくあります。そのようなとき、自分のやってきた考え方や方法に固執したり、言い逃れしたりするのは、傍目にも見苦しいものです。専門家が正しいと言う保証はどこにもありません。どのような方法も、相対的なものです。専門家に見えなかったことが、素人目にはよく見えることがあります。主張すべき点は、主張すべきですが、引くべき点は、素直に引いて下さい。
 このような場合、「ここでは、こういう理由で、こう考えましたが、確かに、そういう見方、考え方もありますから、今後の課題とさせていただきたい」などと、より広い観点から、率直に相手の意見を受け入れて下さい。
 
 研究者としては、自分の考えを自信を持って主張することが、大切ですが、同時に、理のある指摘を率直に受け入れる態度も重要です。
 
(7)実験評価に小説を使用している人へ
 過去の例を見ると「機械翻訳などの自然言語処理では、小説など芸術的なものは、難しくて処理の対象にならないのではないか。それなのになぜ、小説から標本を集めたりするのか」と言う質問が出る可能性があります。この質問には、
 
 「目標は、実用文への適用であり、小説などの芸術作品の翻訳をねらっているわけ
  ではないが、現段階では、いろんなケースを考えて、なるべく多くの表現の種類
  が収集できるよう小説を取り上げた」
 
と答えて下さい。
 
 
 
3.一般的な質問の例
 以下に、予想される質問の例を示します。これらの質問は、専門外の人でも容易に思いつくものですが、これによって、質問者は、発表者が自分の研究の本質が分かって研究しているのかどうかを簡単に見破ることができます。実は、私自身、昨年までの発表会で質問してみて、この程度の質問に答えられない発表者が多いことにびっくりしているのです。
 答えられない理由としては、発表者が分かっていないときと、本当に答えられない研究をやっている場合の2通りがあります。後者の場合は、研究そのものに意味がありませんが、みなさんのやっている研究には、そんな研究はありません。
 各質問に対して、まず、端的に答えられるよう回答を各1行程度に書き出しておいて下さい。実際には、自分の研究内容から見て、的はずれと思われる質問もありますから、下記の予想質問では、的はずれと思われる場合についても、答え方を考えておいて下さい。
 
 1.要するに、あなたの研究で分かったことは何か。
 2.昨年の研究(学部の時の研究)と比べて、進んだところはどこか。
 3.世の中の研究と比べて、どこが違う点か。
 4.世の中の研究に比べて、どの点が進んでいる点か。
 5.世の中に、同様の研究が行われた例はあるか。
 6.あなたのやったところは、どの部分か。
 7.あなたの提案した方法の特徴はどの点か。
 8.この研究のポイントは何か。
 9.この研究成果は何に使えるか。
10.今回の研究目標は、何であったか。
11.今回の研究は、その目標を達成したか。
12.今回達成できなかった点は何か。
13.当初、目標とした正解率は達成できたか。
14.人間の判断も曖昧な点があると考えられるが、正解はどのようにして決めたか。
15.人による判断の誤差は、どれくらいあるか。
16.あなたの提案した方法は、実際に使えるめどが立ったか。
17.どれだけの正解率が得られれば、実際に使えるか。
18.今後、使えるようになるめどはあるか。
 
補足:これらの内容は、元来、発表の中で明確にの述べておくべき事柄です。自分の発表
   では話しているかどうか見直してください。
 
参考:No.15の問題では、課題によって違いますが、各種の日本語表現の意味解析の
   問題の場合、「平均的にみて、95%程度の正解率がほしいが、まあ、90%程度の見
   込みがあれば、実装できると考えている。」と言うところだと思います。人間の判
   断も人によって曖昧な点があることを補足説明すると良いでしょう。
 
 なお、回答に困る点があったら、事前に相談に来ておいて下さい。