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言語表現における線形要素と非線形要素

文献(池原 2003)によれば,言語表現の線形性は以下の通り定義される.

【定義1:言語表現の線形要素】

特定の概念(「複合概念」)を表現するための表現構造の要素のうち,他の要素(意味の異なる要素でも良い)に置き換えても表現構造全体の意味(「複合概念」[*])が変わらないとき,その要素をその表現構造の「線形要素」と言う.

【定義2:表現構造の線形性と非線形性】

線形要素のみから構成される表現構造を「線形な表現構造」と言い,1つ以上の非線形要素を有する表現構造を「非線形な表現構造」という.

本稿ではこの定義に従って対訳例文の線形要素を汎化し,文型パターンを作成することとする.この定義を現実の言語表現に適用する方法と注意すべき点を以下に示す.

(1)
英語による表現の意味の定義

通常,単語が単一概念を表現するのに対して,上記の定義は,「句,節,文等の表現は話者の認識の中で形成された複合概念の表現(池原 03)である」ことを前提としている.

そこで,各言語は複合概念を表すための様々な形式を持っていることに着目し,与えられた日本語表現の意味(複合概念)を英語表現によって記述することとする[*]と,定義1の「表現構造全体の意味が変わらない」ことは,「対応する英語表現の構造が変わらないこと」と読み替えることができる.

その結果,与えられた日英対訳用例において,着目する日本文の文要素が線形であるか否かを判定するには,それを他の文要素に置き換えたとき,対応する英文全体の表現構造が変化するか否かを調べればよいことになる.

(2)
線形要素の重要な性質

文型パターン化を考える上で,上記の定義の持つ意味は以下の通りである.

<線形要素の制約条件>

第1は文型パターンの線形要素の置き換え範囲(値域)の問題である.定義1は,他の要素に置き換えても表現構造全体の意味が変化しないような要素を線形要素としているが,これは実際にどんな要素に置き換えても良いことを意味しない[*].元々日本語側で見て,意味をなさない表現になるような置き換えはできず,線形要素と言えども,置き換え可能な範囲には一定の制約がある.

<要素の選び方と全体の線形性>

第2は表現要素の線形性と表現全体の線形性の関係である.定義2によれば,すべての要素が線形な場合に限り表現は線形だとされている.これは,表現全体の線形性は,その要素分解の方法に依存して決まることを意味している.また,要素の単位を指定すれば,線形,非線型の区別は一意に決定できることから,汎化の程度に応じた文型パターンが作成できる.

<文全体の非線形性と文要素自身の非線形性>

第3は,線形,非線形の区別は表現の部分と全体の関係を言うものであり,線形要素だと言ってもその要素自身が線形であることを意味しないことである.線形要素の内部構造は非線形であっても良い.このように,線形,非線形の分類が再帰的な構造を持つことは,長文の構造が複数の非線形構造の組み合わせで解析できることを意味する点で大変重要な性質である.



平成16年8月30日