『分類語彙表』に対する反対語情報付与

荻原らは,『分類語彙表増補改訂版』(国立国語研究所 2004)(以下、分類語彙表)中の反対語(この論文では対義語と同様に扱う)を枚挙し,対義語情報を整備した[1]. 分類語彙表は「語を意味によって分類・整理したシソーラス (類義語集)」で,意味の区切り行を入れて 101,070 件からなる。意味の区切り行というのは,例えば既婚なら「体-活動-行為-身上」というように意味ごとに区切ったものである.語句に対して,5 桁の数字からなる分類番号,2 桁以下の数字からなる段落番号,2 桁以下の数字からなる小段落番号,2 桁以下の数字からなる語番号が付与されている. 分類語彙表の分類では,類義語だけでなく,反対語・対義語なども同じカテゴリに分類される.「体-自然-生物-生物」なら「有性」⇔「無性(むせい)」や「体-活動-言語-名」なら「同性」⇔「異性」などが,反対語に相当する.しかしながら,「同性」「異性」に関しては,どちらも「両性」というカテゴリーに属していることもあり,反対語か否かの判定は作業者により揺れる. 何を反対語としてとらえるかは,人によって異なる.例えば二律関係だけでなく,三律関係を反対語としてとらえる人もいる.また反対語の中にも,文脈によって置き換え不可なものもある.このような情報を評価するために,分類語彙表から反対語対候補を収集し,「反対語としての認識」「置き換えの可否」についてクラウドソーシングを用いた調査による分布情報を付与する.クラウドソーシングはYahoo!クラウドソーシングを用い,1 語対あたり20 人の作業者に判断を依頼した. 作業者は、「対義語・反対語でない」・「対義語・反対語であるが、置き換え不可」・「対義語・反対語であり、置き換え可」の3 択のいずれかを選択する.「対義語・反対語であるが、置き換え不可」の例として、格が変化する(AにBを)「加算する」,(AからBを)「減算する」を呈示した.「対義語・反対語であり、置き換え可」の例として、「北」,「南」、「暑い」,「寒い」を呈示した.

荻原らの研究の成果として,「体-関係-空間-内外」「体-関係-空間-方向・方角」など1 次元的な軸が仮定できるものは,対義語であり,かつ,置き換え可である割合が高く,「用-関係-作用増減・補充」「用-関係-作用-作用・変化」などは,対義語と認定される割合が高い一方,格標示が変化する可能性があり,置き換え不可であるものが増えているということなどが分かった.また,何を対義語としてとらえるかは人によって異なるため,対義語か否かの二律背反的な定義は困難であることが伺えた.

この先行研究は,対義語情報を分類語彙表に付与しその際に置き換えの可否の情報も付与しているが,置き換え可否に関しては,例文を提示していないので実際に置き換えながら格の変化の確認や,言い回しの確認ができないため正確性にかけると考えられる.