田中らは,情緒推定へのアプローチの一つとして,「情緒生起の原因に着目した手法」に注目した. この手法は,結合価パターン辞書を構築することで,用言の語義から情緒の生起原因を明記した特徴(情緒原因)を解析し,情緒を推定する手法である[1]. さらに,吾郷らは,不足する情緒原因の特徴を補うために,本辞書に「判断条件」を追加した[2]. それに加えて,滝川らは,判断条件においての情緒主とある事物の関係の方向性である「接近」と「乖離」の関係に着目し,辞書を改良した[3]. 本辞書は,日本語語彙大系[4]の結合価パターン14,819件に11,712セットの判断条件を加えた情緒属性が追加され構成されている. 本辞書を用いた情緒推定の方法は,もし,入力文と結合価パターンがマッチし,意味属性制約を充足し,かつ,判断条件が成立するならば,対応する情緒属性として「情緒名」,「情緒主」,「情緒対象」を出力するというものである. しかし,判断条件「保留」と付与された,判断条件が不明確なパターン1,600件が残っている. 本研究では,この箇所を再分析し,補修を行い,その判断条件を利用して情緒推定を行う.
本論文の構成は以下の通りである. 第2章では,情緒属性付き結合価パターン辞書について述べる. 第3章では,判断条件の補修手順,ならびに,補修例を示す. 第4章では,補修した判断条件の付与精度について調査し,今後の精度向上について考察する. 第5章では,情緒推定実験を行う. 第6章では,本研究の考察を行うとともに,今後の課題について述べる. 最後に第7章でまとめを述べる.