ここで,「情緒生起の原因に着目した推定手法」として,関連研究を以下 に述べる.まず,目良らは深層格フレー ムと好感度計算式で,入力文から情緒を解析した[8]. この手法は,あらかじめ ユーザが人物と物事に快/不快の好感度を 設定しておき,解析の際,入力文における人物や物事の 好感度を掛け合わせて,正なら「快」,負なら「不 快」という推定を行う. 問題点は,あら ゆる語において好感度を用意する必要があること,および, 人物や物事の省略や照応の解析が必要であることである.
次に,徳久らはWebから感情生起要因となるものを獲得することで感情を解析し た[9].この手法は,あらかじめ人の感情生起に関する用例文を 原因表現と共にWebから抽 出しておき,解析の際,入力文から原因を検出することで,感情を解析する. 収録でき た感情生起要因は約130万件に登り,これまでにない大規模なコーパスを作成し た.この手法において,感情推定精度はある程度良い精度が得られ ることが分かったが,マイニングへの応用を考えたときの 問題点としては,情緒対象が不明であることが挙げられる.
一方,田中らと吾郷らは,日本語語彙大系に, 「情緒属性」として,判断条件,情緒名,情緒原因,および, 情緒対象を追加し,情緒推定用結合価パターン辞書を作成することで, パターンベースでの情緒推定の手法を示した. 情緒推定の方法は,もし,入力文と結合価パターンがマッチし, 意味属性制約を充足し,かつ,判断条件が成立するならば, 対応する情緒属性を出力するというものである.
ここで,判断条件を常に成立すると仮定することで,用言の語義に基づく情 緒推定が可能であり,目良らの手法ほど格要素に依存することなく 情緒推定が可能である. しかし,判断条件を常に成立すると仮定することで, 過剰に情緒が推定されてしまう問題が発生した.
そこで,本研究では, 判断条件が示す情緒主とある事物の接近/乖離性の関係と, 情緒の共起関係を統計的に集計した判断情報知識ベースを構築し, 過剰な推定の抑制に有効であるかの調査を行う.
本論文の構成は以下の通りである.第2章では,情緒属性付き結合価パターン辞 書について述べる.第3章では,従来手法の問題点と提案 手法について述べる. 第4章では,判断情報知識ベースの構築手順と構築の様子を示す. 第5章では,情緒推定実験を行い,第6章では,実験結果の考察を行う. 最後に第7章でまとめを述べる.