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概要

言語の意味理解の1つとして,言語表現から話者や登場人物の情緒を推定する技 術の実現が期待されている. これに対し,田中らは,情緒推定へのアプローチの一つとして,「情緒生起の原因 に着目した手法」に注目した.この手法は,情緒属性付き結合価パターン辞書を 用いて,用言の語義から情緒の生起原因を明記した特徴(情緒原因)を 解析し,情緒を推定する手法である.吾郷らは,不足する情緒原因の特徴を 補うために,本辞書に「判断条件」を追加した.

判断条件とは,情緒属性が成立するための前提条件であり,結合価パターン 中の格要素同士,すなわち,情緒主とある事物(以後,二者という)との間を関 係づけることで表現した.しかし,二者を関係づけるだけでは,判断条件の運用 において矛盾が生じることが分かった.

そこで本研究では,以下の3つを行う. (1)二者の関係の方向性,すなわち,「接近」と「解離」 が示されるように判断条件の改良を行う. (2)改良した判断条件の正しさの評価を行う. (3)改良した判断条件を用いた情緒推定の性能を実験により評価する.

具体的に,(1)では,判断条件「目標実現」が付与さ れたレコード5,932件に対して,手作業で改良を 行う.二者の方向性が「接近」であることが,情緒属性の成立する前提ならば, 「目標実現・近」に,「解離」であることが前提ならば,「目標実現・離」に改 良する.ただし,結合価パターンの用言のみで解析される語義が,情緒原因を示 している場合は判断条件を「不要」とする. (2)では,(1)で改良した判断条件が付与されているレコードをランダム に300件抽出し,判断条件を再付与することで付与精度を調査する. (3)では,判断条件を用いた情緒推定を行うために,ブログの本文デー タを利用し,判断条件が示す二者の関係が成立するか否かを統計的に集計した判 断情報知識ベースを構築する. そして,情緒タグ付き日記コーパスに収 録されている節に対して,本知識 ベースを用いた情緒推定の実験を行う. 情緒推定結果と本コーパスの情 緒タグとの一致率を調査し,性能を評価する.

以上の結果,(1)では,「接近」の方向性を示す「目標実現・近」が2,727 件,「解離」の方向性を示す「目標実現・離」が513件,および, 「不要」が1,510件となっ た.(2)では,以前付与した判断条件と,再付与した判断条件との一致率が79.3% となった. (3)では,判断条件未使用時の情緒推定結果と,本コーパスの情緒タグとの一致 率が46%だったのに対して, 本知識ベース使用時の一致率は69%となった.したがって,判断条件を使用する 情緒推定が,推定精度向上に繋がることを確認した.

以上より,本研究では,判断条件「目標実現」に,二者の関係の方向性である「接 近」と「解離」の情報を追加した. また,判断条件を使用する情緒推定が,推定精度向上に繋がることを確認 できた.

今後の課題は,判断条件の付与精度の向上,および,大規模な判断情報 知識ベースの自動構築手法の開発である.



平成21年3月19日