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概要

言語の意味理解の1つとして,言語表現から書き手や話者,登場人物 の情緒を推定する技術に期待が寄せられている.これに対し,田中ら は情緒推定へのアプローチの1つとして,「情緒生起の原因に着目した手法」 に着目した.この手法では,情緒属性付き結合価パターン辞書を 構築することで,用言の語義から情緒の生起原因を明記した特徴(情緒原因) を解析し,情緒を推定している.また,吾郷らによって,不足する情緒原因の特徴を 補うために,本辞書に「判断条件」が追加され,滝川らにより,改良が行われている.

判断条件は,用言の語義が示す感情的な特徴が成立するための前提条件で, 情緒主とある事物(以後,二者という)を方向性とともに関係づけることで 表現している. また,判断条件の運用の為には,ブログデータより,判断条件が示す二者の関係と, 情緒の共起関係を統計的に集計した「判断情報知識ベース」の構築が必要である が,収集コストが高い為,網羅性の問題がある.

そこで,本研究では,判断情報知識ベースの 網羅性の向上の為,連体修飾節の1つである 形容詞に着目し,情緒原因を成立させる形容詞を知識化した 「形容詞型判断情報知識ベース」の構築を行う.また, 形容詞型判断情報知識ベースの構築の前処理として,未改良である 判断条件「生理」の改良を行う.

判断条件「生理」の753件のレコードに対し改良を行った結果, 方向性が「接近」である「生理・近」が136件,方向性が「解離」である 「生理・離」は169件,「不要」が349件となった.

また,形容詞のイメージ値の絶対値が高く,語義によるプラス・マイナスイメー ジの揺らぎが無い場合,判断条件の判定に形容詞が利用できることを, 判断条件「生理」において確認した. その後,形容詞型判断情報知識ベースの構築を行い,性能を評価したところ, 本知識ベース未使用時と比べて同意率が12%上昇した.これにより本知識ベース の有効性を確認できた.

今後の課題は,判断条件「生理」以外での形容詞型判断情報知識ベースの 構築である.



平成21年4月2日