本研究は，情緒傾向値付き文末表現パターン辞書の開発を行う． メールやブログ等のテキストコミュニケーションにおいて， 用いられる口調のきつさを判定する技術が必要である． 日本文の発話において，話者の情緒や意図といった心的態度は， 助詞や助動詞といった形で文末に表れ得るとされているが， 口調のきつさと文末表現の関係について，定量的な評価はまだ行われていない． これは，文末表現の情緒的傾向を定量的に計測することのできる辞書が 開発されていなかったためである．
そこで，本研究では， タグ付きテキスト対話コーパスから文末表現と情緒の共起頻度を集計し， 情緒的傾向を定量的に計測することのできる 文末表現パターン辞書を作成する． その結果，1,515件の文末表現パターンを作成することができた．
評価実験として， 「やわらかい口調」，「中立の口調」，「きつい口調」の 3種類のきつさの口調で書かれた同じ旨のメール文章の， 文末表現から解釈される情緒的傾向を，本辞書を用いて機械的に計測した． その結果，きつい口調の文章と他の2つの口調の文章では， 情緒的傾向に明確な違いが出ることが確認できた． 計測結果と，メール文章に対する人手による解釈を比較したところ， 同様の傾向が見られ， 辞書を用いた計測結果の妥当性を確認した．
また，その計測結果の応用として， メール文章が「きつい」か「きつくない」かを判定する実験を行ったところ， 文がパターンに適合した範囲では，約6〜7割の精度で 正しく判定を行えることが確認できた． よって，本研究の目的を達成できた．