メールやWeb掲示板,チャットなどといった テキストコミュニケーションにおいて, 情感に配慮した言い回しをすることで, 親和性を向上させ,対話の効果を高めることができると考えられている. 例えば,同じ内容の要求をした場合でも, 怒った口調で言うのと期待に満ちた口調で言うのとでは, 要求したことで受け手に与える心的な変化に差があり, 結果として生じる受け手側の対応も変化すると考えられる.
音声や表情といった情報があれば話者の情緒が伝わりやすいが, テキストだけで情緒が伝わりにくい.この点に着目し, テキストを用いた対話における情緒表現を補うための支援技術 が研究されている.
話者の情緒や意志,心的態度といったものは, 主体的表現として助詞や助動詞などで表現される[4]. 文末表現を適切に選択することで, タスク指向の発話に情緒変化を考慮する研究として[3] があるが,文末表現の数が少なかった.
文末表現を選択する上で, ただ情緒面を考慮するだけでは不十分である. 対話を成り立たせるためには 発話者の意図が保たれなければならない. 比較的多くの意図を対象とし,情緒表現を絡めた 表現選択を行った研究は未だ無いので, 研究の必要がある.
そこで本研究では情緒を表す 文末表現の知識ベースを作成し,発話そのものの意図は変えずに, 情緒的な雰囲気を変化させる文末表現の選択手法の実装を目的とする. 具体的には,表現の選択の幅を広げるために 先行研究[6]のコーパスから抽出された文末表現を利用する. しかし,この文末表現には発話意図の情報が無いため, [7]を参考に意図属性の付与を行う. また,文末表現を選択する上で必要となる 文の解析・生成のために,意図属性を付与した文末表現のパターン化を行う.
本論文の構成は,以下の通りである.まず第2章で研究の背景を述べ, 第3章で文末表現変更用の知識ベースの構築について説明する. 次に第4章で,文末表現を選択するアルゴリズムとその実装について説明し, 第5章で,評価実験を行う.第6章で評価結果の考察を行い, 最後に第7章で本研究をまとめ,今後の課題を示す.