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概要

言語の意味理解の1つとして,言語表現から話者や登場人物の情緒を推定する技 術の実現が期待されている. 機械翻訳の分野では,日本語の主要な用言の語義を網羅的に類型化した「結合価 パターン」による翻訳が提案されている.これは,結合価パターンが語義解析に 有効であることに着目した手法である.そこで,情緒解析の分野でも,パターン に情緒推定のための情報を付与した「結合価パターン辞書」を用いての情緒解析 が提案されている.先行研究において,情緒を明示的に表す用言の結合価パター ンを対象とした辞書が村上らによって作成されているが,この辞書の情緒推定に おける性能の評価はまだ行われていない.

そこで本研究では,まず,(1)村上らの作成した辞書の見直しと校正を行う. 次に,(2)構築した辞書を用いて言語表現に対する情緒推定実験を行い,性能 の調査を行う.

具体的には,(1)では,村上らの作成した辞書を参考に,改めて情緒の明示性 を判断して結合価パターンを抽出し,「情緒主」,「情緒対象」,「情緒名」と いう情緒属性の付与を行い,辞書の校正を行った.(2)では,日記テキストを 対象に,パターン照合による情緒推定を行い,辞書の性能の評価を行った.

(1)の結果,規模約1,000件の情緒属性付き結合価パターン辞書を構築した.ラ ンダムサンプリングによる同意率の調査を行った結果,90%以上の同意が得られ たため,安定して分類されていることが分かった.(2)の結果,情緒を明示的 に表す日記テキストを対象とした場合の情緒推定の精度は,本辞書の$ F$値が 0.54,人手の$ F$値が0.7〜0.79で,差は0.2あった.そのうちパターンに適合し た節の場合は,本辞書の$ F$値が0.74,人手の$ F$値が0.71〜0.8と,本辞書と人 手との評価は近い値であることが分かり,辞書への情緒属性付与は高い精度で行 われたことが分かった.また,誤り分析を行い,精度向上ヘ向けての考察を行っ た.

以上により,本研究では情緒を明示する用言の結合価パターンによる知識ベース 化に成功し,その性能が確認できた.



平成19年3月12日