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次へ: 言語の意味処理における情緒推定の位置づけ 上へ: paper 戻る: 表一覧   目次

はじめに

言語の意味理解の1つとして,発話された文から話者や登場人物の情緒 を推定する技術の実現が期待されている.これに対して既に文中の副詞や形容詞 の感情表現性に注目した解析や[1],動詞の深層格関係に注目した解析[2]が提案されているが,今後さらに表 現の構造に着目した解析方法の実現が期待される.

本研究では,表現の構造から語義を解析する能力が「結合価パターン」にあること [3]に着目して,日本語語彙大系に収録されている全ての結合価パター ンに対して情緒の生起に関する情報を付与した情緒推定用の結合価パターン辞 書の開発を目的とする.

本パターン辞書の開発における問題点は, 1)情緒生起の原因と語義の関係を定める基準を設ける必要があること, 2)情緒生起の判断には,文脈情報や世界知識を用いて解析しなければならない 部分があり,こうした部分と語義を結びつけておく必要があること, 3)作成した辞書の精度と網羅性を確認する必要があることがあげられる.

1)に関しては,[4]の情緒生起の特徴に着目する.[4] では情緒生起の原因が端的な記述で示されており,語義と情緒の対応付けが比較的 安定して実施できると予想される. 2)に対しては,世界知識や文脈情報を 取り込むための条件を辞書に設けることで,語義の解析に続いて意味理解の 観点を含んだ情緒推定を行うことを目指す. また,3)の対策として,新たに3名の分析者が分担で辞書の検査を行い,校正を行う.

本研究では,こうした作業を3段階に分けて実施する. そして,辞書の精度を計測するために推定実験を行う.

本論文の構成は以下の通りである. 第2章では言語の意味処理の視点から研究の背景を述べる. 第3章で情緒推定の原理と具体的な付与内容,前提条件について述べ, 第4章では作成の過程を各工程に分けて記述する. 第5章では改訂結果を2つの視点から検討し,分析を行う. 第6章では作成した辞書を用いて結合価パターンの推定の精度を計る意味で推定実験を行う. 第7章で考察を行い,最後に, 第8章でまとめと今後の課題について述べる.



平成18年3月24日