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概要

言語表現からの情緒推定の1つの方法として,トップダウン的に心的過程を追跡 する方法が提案されている[徳久 05].この方法は,入力文の「語義」 に基づき情緒を推定する背後で,情緒の生起するための「前提条件」の成立の確 認を行うものである.前提条件は,「目標」や「プラン」などの心的構成素の関 係に対する条件である.[田中 06]では,語義,情緒,および,前提条 件の対応関係を結合価パターン辞書として定義している.しかし,「前提条件」 の成立を確認する手順が示されていなかった.そこで,本稿では,前提条件の成 立を確認する手順の確立に向けて検討を行うことを目的とする.

従来の意味解析において,情緒主の心的構成素は,各文において解析されうるが, 断片的である.前提条件の成立の確認とは,断片的な心的構成素を結び付けるこ とができるか否かを文脈情報や世界知識を介して判定することである.心的構成 素の言語表現は事象の表現である.心的構成素の結び付きは,事象と事象の関係 である.こうした事象間の関係は一般的に因果関係や時間的経緯など様々な関係 がある.ここで,因果関係知識を重文・複文の用例集から節間キーワード(接続 標識「ため」)に基づきテキストから自動獲得する手法が[乾 04]によ り示されている.

したがって,前提条件成立の確認手順の確立における問題点は以下の4点が挙げ られる.

  1. 前提条件を列挙すること
  2. 用例集を構築すること
  3. 前提条件ごとに注目すべき節間キーワードを示すこと
  4. 用例集を利用した前提条件の確認を文脈に応じて運用すること

本稿では,例題を用いて上記の問題を検討する.

(1)では,[田中 06]により試作された前提条件を用いた.(2)では,用 例46,388文から分割事象対162,294件をDBに登録した.(3)では,7種類の前提条 件と12種類の節間キーワードとの対応関係を得た.(4)では,(1)の前提条件, (2)のDBおよび,(3)の対応関係を用いて,例題を検討した.その結果,推定対象 15文のうち10文について前提条件の成立を確認できた.以上により,本稿では前 提条件の成立を確認するための1つの解決の道筋を示した.



平成18年3月20日