任意の日本語名詞句「AのB」に対して2.2章で分類した8種類の表現形式のいずれ の形式に翻訳すればよいかについて考える。そこで本研究では意味的関係に着目 する。
名詞句「AのB」の意味的関係には所有,所属,時間的,位置的関係など多数あ
る。また,意味的関係によって訳し方が決定できる場合も多数存在すると考えら
れ,意味的関係を
作成することで翻訳規則の作成が可能であると考えられる。そこで,名詞
句「AのB」の意味的関係を表現するための規則が必要となる。
これまで意味的関係を決定するための研究が数多くされており,横山らによる格助詞 「の」の分類と解析[1]などがある。
【横山らの研究】
横山らの研究では名詞句の両方の名詞の意味素性に着目し,その組み合わせによっ て意味的な分類(所有,同格,時間,場所など)を行っている。横山らの研究で用 いられている意味素性とは名詞のもつ意味を表したものであり,IPAL基本動詞辞 書の意味素性12個を利用している。表1に12個の意味素性を示す。
しかし,12個の意味素性では意味的な分類が困難である表現が多く存在する。例 えば,名詞句の名詞A,Bの意味素性が両方「人間」である場合,意味関係が「所 有」であるのか「同格」であるのかを区別することはできない。そこでさらに細 かい意味素性(Aの名詞が身分,親族を表す)を与えることで同格の意味関係を得 ることができる。このように意味的関係を表すにはさらに細 かい意味素性を与える必要がある。これに対して単語意味属性体系では単語の意 味属性を約2700に分類しており意味的な分類を行うことが可能であると考えられ る。
そこで,本研究では名詞A,Bについて意味属性と名詞の種類(固有名詞,一 般名詞など)を決定する品詞コードを利用することで意味的関係を判定し,翻 訳規則の作成を試みる。意味属性について2.4章で述べる。品詞コードについ て図3 に示す。横山らの研究を参考に,本研究では意味的関係とその決定規則を7種類 作成し,翻訳規則の作成に用いる。以下に意味的関係の例と決定規則を示す。
意味的関係の例と規則
1. AとBが同格 例 : 娘の恵美,弟の春男
(1)人名を含む同格の規則
A:品詞コード:"not固有名詞(姓,名)" かつ 意味属性:(人)
B:品詞コード:"固有名詞(姓,名)" かつ 意味属性:(人)
(2)地名を含む同格の規則
A:品詞コード:"not固有名詞(地名)" かつ 意味属性:(地域)
B:品詞コード:"固有名詞(地名)" かつ 意味属性:(地域)
2. Aが場所を表す 例 : 公園の花,京都の大学
Aの名詞の意味属性が場所,家屋(本体),部屋を表す
3. 時間的関係を表す 例 : きのうの試合,来週の火曜
A,Bの名詞の品詞コードが時詞である
4. BがAの所属を表す 例 : 学校の先生,会社の社長
Aの意味属性 : 組織, Bの名詞の意味属性 : 人
5. BがA(木,無生物)の一部を表す 例 : バナナの皮,
車のドア
Bの名詞がAの名詞の部分である
6. AがBの種類を表す 例 : 漫画の本,松の木
Aの名詞がBの名詞の種類である
7. AがBの材質を表す 例 : 水晶のネックレス,金のメ
ダル
Aの名詞がBの名詞の材質である