月刊GM研夏特大増刊号

GM研代表特別講演

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GM研代表特別講演

『保科裕二 -未来を語る- 』

今ゲームは岐路に立っています。セガのニューハード『ドリームキャスト』 の発表、『FFVIII』とCG映画のFF、そして、『ドラクエVII』もポリゴンを 導入しました。加速度的に進化していく映像表現と、ゲーム人口層が拡大し すぎたために引き起こされる歪みが見え隠れしています。現在法廷で争われ ているゲームの中古販売問題などは、その一端でしかありません。まだ表面 に出て来ていないだけで、ゲーム業界を蝕む病は着々と進行しており、近い 将来には恐慌的な大惨事を引き起こしかねません。 勿論、業界人はそのような最悪の事態を回避するよう努力をするでしょう から、私が描く最低のシナリオの通りにはならないでしょうし、そうなって もらわなければ困ります。これは、一つの可能性として読んで下さい。

『ドリームキャスト』

セガが社運を掛けて98.11.20に発売される新ハード『ドリームキャスト』。 直訳すると『夢放送局』。その宣伝戦略は従来のセガ路線からは想像もでき ない程プライドを捨て去ったもので、インパクトは充分なのですが.....筋金 入りのセガマニアは少々眉をしかめているようです。セガのイメージはやはり 「頑固者」と捉えられており、『ドリームキャスト』の宣伝戦略はそのイメージ の払拭にやっきになっているのです。宣伝戦略担当にあの秋本康を迎え、例の 「立つんだ湯川専務!」などの衝撃的なCMを展開している。

ドリームキャストがトップを取れるかどうか?というと答えはNOである。 スクウェアがソニー陣営との密約を優先することはもう明白な事実であり、 スクウェアが動かないなら、ドラクエのエニックスも動かない。この2社を 陣営に引き込めないハードには絶対に天下は取れない!

シェアはサターンよりは上回るだろうが、600〜700万台くらいでうち止めに なる公算が高い。ハードの寿命も3年もつかどうか...DVDドライブがまだコスト 的に無理があったためドリームキャストでは搭載が見送られたが、先に動いた セガが損をする可能性が高い。プレイステーション2はおそらく2000年発売 をめどにして計画が進行しており、DVDドライブ搭載も現実味を持つ時期の発売 となりそうだ。そうなると、2002年くらいには、セガはまたニューハードを出さ ざるを得なくなる。ドリームキャストは過渡期的ハードになりかねない危険性 を持っているのです!

『FF と DQ』

最近強く強く思っている事のひとつに、ゲームの「リアル」という考え方につい てがある。ゲームの「リアル」というものは、単純に絵の綺麗さだけではないと 私は思っている。ゲームというもの、そのものが架空の世界なのだから、大切な のは、その世界をどれだけ高い割合でプレーヤーに伝える事ができるかどうか ではないだろうか?
それこそがゲームの「リアル」でないか?
グラフィックの美麗化がとても手っ取り早い手段である事は認めざるを得ない。 人間にとって、一番インパクトのある表現とは、映像に他ならないのだから。

しかし、映像美だけしか認められないという風潮には問題がある。

私は、「ドラクエVII」の画面写真が初めて公開された時、ホッと胸をなでおろし ました。「ドラクエの世界観が守られた」というより、「ゲームの未来の希望が 守られた」と感じました。
私は常々、「FFのリアルだけしか認められなくなれば、ゲームの可能性は 失われる!」と警告して来た。FFのリアルはテクノロジーに根ざした物であり、 変わり続ける事を宿命づけられている。DQのリアルはスピリットに根ざした物 であり、両者はもはや違う次元に進もうとしています。
ゆえに、FFとDQを同じ物差しで計るのは、もはやナンセンスなのです。
FFもDQも、ゲームのひとつの可能性にしかすぎません。

「ゲームがつまらない」なんて諦めるのはまだ早い。ゲームにはまだまだ 可能性があるのです。FFとDQが来るべき未来の先端を行くゲームである事は 間違いありません。

あなたも、そこに、アラ捜するのではなく、希望を捜してみて下さい。

『未来を開く? 64DD?』

ゲームが今後進化していく過程において、今一番注目を集めているのは、 ドリームキャストでも、プレイステーション2(仮題)でもなく、ニンテンドウ 64の追加アタッチメントである、64DDです。

こう言うと大抵のゲーマーは笑います。しかし、製作者サイドからすると、 こんなに魅力的なハードはないのです。ただ、本体の普及率の悪さと、未知の ジャンルの開発にあまりにも時間がかかりすぎるため商業ベースに乗りません。 それゆえ、クリエーターもしぶしぶ手をだせずにいるのです。

64DDのスペック最大の特徴は、20MBにも及ぶバックアップ容量を持っている 事です。プレステのメモリーカードが約128KBだから、その巨大さは相当なもの。 これを活かせば、全く新しいジャンルのゲームがいくらでも作れるでしょう。

例えば、LACG(ローカル・エリア・コミュニケーション・ゲーム)という、 新種のRPGなんて物も出て来るでしょう。LACGは、簡単に言い替えると、 『冒険の足跡を記録できるRPG』です。
町で何気なく声をかけた人ひとりひとりが、独立した人格 を持って主人公に接して来ます。その接し方ひとつで人物関係が刻々と変化し ます。主人公は世界にダイレクトに干渉している実感を持てるようになります。 ゲームの進め方によって、その世界はどんどんパーソナルな物になって行く。 ゲームをする人間の性格によって、 千差万別の冒険記が完成されていくわけです。

それは、本当の意味での自由度の実現でもあります。自由度の進化とは、 選択肢の増加や、繰り返しを強制するものであってはなりません。本当の 自由度とは、選択肢を全てプレーヤーの創造力にまかせる事だと思います。 ゲームは、世界を与え、ありとあらゆる発想を可能にするシステムを組むだけ でいいのです。もっとも、それはとんでもない労力を要しますし、実現させた ゲームは過去にはありません。

64DDにはそれだけの物を作り得る可能性があります。しかし、その可能性 は、おそらく芽を出す事すらなく終わってしまうでしょう。それはゲームの 未来にとって、とても不幸な事です。願わくは、64DDが歴史的『第半歩』でも ふみだせる事を祈りたいものです。

『今年最大の珍事!? デコトラ伝説』

今年6月に発売された、『爆走デコトラ伝説』というレースゲームは、大変 な衝撃作となった。速く走る事が目的のレースゲームではなく、自分のトラ ックを飾りたてる(デコレーションする)事を目的にした、熱いトラック野郎 ゲームなのです。

発売前、このあまりに奇抜な発想のゲームを、ほとんどの人はこのあまりに ブッ飛んだ設定を笑い飛ばしていた。かくいう私もそのひとりだった。
しかし、もっと驚かされたのが、このゲームの売れ行きだった。何と3か月 で30万本!最終的には40万本を売る見通しである。10万本行けば大成 功と予想していたゲームだったのに、今や、「続編GOサイン」が出てしまう クラスにまで売れてしまった。

私が、このゲームで一番不思議に思っている事は「誰が買ったんだろう?」 というもの。なにしろ「デコトラ」の世界はとてもマイナーである。しかも ホンマモンのトラック運ちゃんは、ゲームなんてしない。...とすれば、この ゲームを買うのは、そういう職業に憧れを持つ人くらいであろう。そういう 限られたターゲットに搾ったゲームだと思えばこそ、「売れない」と判断し たのだが...その予想は見事に覆された。

この意外な大ヒットは、ゲームアナリストとしての今年唯一の失点である。 しかし、ゲームクリエータの視点からすると、大きな希望でもある。
息苦しい程に、文法化され閉塞的なゲームしか売れない現在の状況に、あの ような「奇ゲー」でも、売れる可能性があることの証明でもあるのです。

誰もがスクウェアのような作り方ができる訳ではないのだから、勝負するに は、他人から失笑されてしまうくらいのアイディアが必要なのです。どんな に美味な料理でも、そればかり食べ続けると飽きてしまうように、ゲームも 大作ばかりになってしまっては飽きてしまいます。
たまには、お茶漬けのようにさっぱりしたものも欲しくなるし、ドラックの ような劇薬(刺激)も欲しくなるものです。

人間の自然な欲求が、そういう所にも存在しているのだから、メーカーは もっと勇気をもって「奇ゲー」を世に送り出して欲しい。そこには、未開の ゲームの可能性が眠っているのだから! 目次に戻る
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