タイトル | 総合点 | シナリオ | 演出 | 操作性 | 戦略性 | バランス | やり込み | 熱中度 | 完成度 |
街 |
シナリオ:9点
まずは「よくもここまで...」とあきれる所から始めよう。メインとなるシナリオは
9本だが、100人にものぼるサブキャラもしっかりと一人一人の個性と物語を持って
いて、そして主人公たちのシナリオに干渉してくる。作者は「このゲームは偶然をよそ
おった必然のゲームだ」と言っているが、他人目から見ると、正気とは思えないほど
の文章量にあきれます。
話そのものは「お笑い」がメインで、「かまいたちの夜」みたいな切迫感は
ありません。刑事物の話もあるけど、それでも基本は笑いです。どの話も、かなり
現実離れしてしてブッ飛んだ内容だけど、いつしかその非日常の世界の方が本当の世界
のように思えてしまった。シナリオに引き込まれるのではなく、お笑いのライブを鑑賞
するという種類の面白さは、新鮮であった。メイン・サブキャラ全員の魅力を十分に
引出したこのシナリオには、ただただ驚くばかり。ただし、この濃度の濃さについて
来れない人もいるかも?
演出:9点
実写静止画ということで、始めはそのリアルさにとまどったが、しばらくして、
これは本当のリアルとはベクトルの違うリアルである事に気がついた。このゲームの
画面はぱっと見はとてもリアルである。しかし、ゲームとして動かしていると、そこに
違和感を覚える。その画面は実写でありながら、どこか偽物であり、どこか漫画チック
ですらある。そう、このゲームの画面は微妙に加工されているのだ!
ピントが人間に完全に合っていたり、「止まる」事を前提にした演技とか...
ただし、動かないからこそ良かったとも言える。でなければ文字でフォローする必要が
無くなってしまって、サウンドノベルである必要がなくなってしまう。それでは映画と
同じだ。「街」のこの手法はリアルさよりもゲームらしさを追求したものであり、
結果的にこれが、サウンドノベルの新境地を切り開いたのだ!
操作性:8点
話の分岐点にはさんでおけるセーブポイントである「しおり」の数が全然全く
ちっとも足りない。なにしろ分岐点の数がハンパじゃない。「かまいたち」に比べて
32倍くらいあります。まあ、不満点はこのくらい。CDの入れ替えも普通にプレーする
分には1回だけで済んだし、CDの読み込み時間も比較的速かった。「サターンのコント
ローラは長時間握っているとイライラする」という問題だけはどうしようもない事
なんだけどね。
戦略性:10点
「街」はアドベンチャーゲームにパズルの要素を持ち込んだゲームである。従来の
選択肢分岐以外にも、他人の行動に影響を与える行動分岐があって、これをひとつ
間違えると、誰かがバットエンドに直行!8人の主人公を同時刻で進行・解決
していかないと先に進めない。
この手法は本当にアドベンチャーゲームの新時代を予感させるものだった。いみじ
くもアドベンチャーゲーム好きを自認する人は、サターンをこれだけのために買う価値
があります!もしくは、友達からサターン本体を借りてでもやる価値があります!
.....いや!ヤレ!これをやらずしてアドベンチャーゲームを語る事なかれ!!
バランス:7点
複雑に入り組みすぎたシナリオのため、いとも簡単に詰まります。最初の頃は、
本当にまいってしまいました。ちょっと日をおくと、どこがどうなっていたのか
サッパリ分からなくなってしまいます。一気に解かなくてはならないゲームだけど、
気力の問題から、一日に一日分(全部で五日間の話です)進めるのがやっと。
できるだけまとまった暇がある時にやりましょう。生活の全てが「街」一色になって
しまうので、テスト前とかは厳禁です。
やり込み:9点
エンディングは一人につき一本しかありませんが、バットエンドは全部で
122本もあります。すべてのバットエンドを見るという、マニアックな楽しみ方も
できますが、実はこのゲーム、普通にクリアするだけで、全体の90%くらいを体験
できるような仕組みになっているんです。バットエンドにぶつかりながら先に進んで
いくので、全体の流れは直進ではなく蛇行になっている。クリア後には簡単にピンクの
しおりにする事ができるし、隠しシナリオ「青ムシ抄」もだれにでもプレーできる。
この隠しシナリオがまた出色の出来。なんとアニメ仕立てで完全なギャグ路線。
本編以上に爆笑できます。好き嫌いがとても激しいシナリオですが、私は結構お気に
入りです。
熱中度:10点
サウンドノベルにとって、シナリオが魅力的なのは当たり前の事であるが、その
シナリオを活かすも殺すも、その世界にいかに自然にプレイヤーを引き込めるか?に
かかっている。その点で、「街」は物語の舞台を現代、それも「渋谷」という実在の街
を使っている。しかも実写。とても自然にゲームに入っていける。
だけど、「街」はリアルというものからいくつかの物を取り去っている。それは
現実感という匂いだ。これはゲームらしい演出をする上で、どうしても必要な物だ。
「ゲームにはまる」という状態を維持するためには、プレイヤーにあまり細かい事を
気にさせてはいけない。近すぎる現実はゲームとしての「面白さ」を拡散させかねない。
あえて非現実>
>味付けをする事で、「街」は本物以上に先鋭化された面白さを手に入れたと言える。
完成度:9点
「街」は実は、とても未完成なゲームである。語られなかった二人の主人公の後半
二日間。語り尽くせなかったサブキャラたちの五日間。これれがすべて語られて初めて、
「街」は完成するのだ。上記の未完の部分を今後「街2」「街3」として発売し、補完
していく事になる。そのシナリオは「街」をプレーした一般プレイヤーからの公募する
という。「街」はもうひとつの渋谷をプレイヤーの中につくりだすだろう。これはゲーム
の新しい可能性である!