やくも体験記


<伯備線予備知識>

伯耆大山駅(鳥取県米子市)と倉敷駅(岡山倉敷市)を結ぶ山岳路線。陰陽連絡線の中で唯一の幹線(厳密には美称線も含まれる)であり、貨物列車も通る。全線電化され、岡山県南部で複線化されている。

この路線を通る優等列車は「特急やくも」「特急スーパーやくも」「サンライズ出雲」があり、重要な輸客ルートでもある。特急やくもは山陰本線・山陽本線と接続し出雲市〜松江〜米子〜根雨〜生山〜新見備中高梁倉敷岡山を結び、新幹線乗継を意識したダイヤ設定となっている。特に米子岡山の最重要ルートであり、最近まで敵対する高速道路も無かったこともあり積極的な高速化が図られてきた区間である。


今日ほど「逆境」という言葉の似合う1日は無かっただろう。島本和彦の「逆境ナイン」に急に親近感を感じてしまった。できる限りの手は尽くしたのだが、それも全て裏目に出るという、まったく偶然とは思えない状況ばかりだった。

かねてからの目的、「特急やくも&スーパーやくも」に乗る流浪旅を果たしたのだけれど、それがまさかこんなことになろうとは……。

予定では以下のようになるつもりだった。
AM08:30鳥取発(車)
AM10:30米子着(車)
AM10:53米子発(やくも)
PM13:01岡山着(やくも)
岡山市内徘徊
PM17:18岡山発(スーパーやくも
PM19:16米子着(スーパーやくも
PM22:00鳥取着

実際は以下の通り。ドラマにもコメディにもなりゃしない。


元々先週日曜に決行の予定だったが、家の用事が入り断念。その日曜も、さらに前から延ばしのばしになっていた。

そして今日。研究室の用事もあり、他にもやることがあるが、絶対居なければいけないというわけではない。こういう日は意外と少ないので、半強制的に決行することにした。


最初のトラブルは、前日に研究室の事務室の鍵を持って帰ってしまったこと。このまま1日空けるのはかなりまずいので、行きがけに持っていくことにする。

朝8:30出発。普段なら家の前の国道29号のラッシュが終わる時間である。しかしこの日は朝から小雨。路面の排水の悪さもあり、交通がスムーズに行っていないらしく、ラッシュが全然終わってない。裏道を通るにも表通りを避けた車がビシバシ通り、非常に危険な状態。国道に出るのにも長い信号(約4分)を2回くらい、いきなり大きなロスをくらう。

どうせ行くのだからと、週刊サンデーを行きがけにコンビニで買う。これはとりあえず問題なかった。9号BPも何とか普通程度に抜けられる。抜け道を通り鳥大まであと一歩……のところ、鳥商前交差点でヘタっぴが一匹いて、信号1ターン(約2分)失う。


研究室に急いで行き鍵を置いてすぐ戻る。そして出発。この時点で既に9時前。湖山街道を行くが、重そうな石材を積んだトラックに阻まれる。逃げて養護学校前から本線に入ろうとするが、そのトラックの前に居たコルサも同じ方向へ。そいつがゆっくり走り、無惨にも長い信号(約4分?)は目の前で赤に変わる。そいつはなんと右折。何しにこっち来たのと言いたい。

信号が青になってマイハイペース。伏野交差点で赤になり、湖山街道筋からの車が大量に入ってくる。まさか元が取れなかったかと思いきや、先ほどの石材を積んだトラックは止まり、それよりはかろうじて1台分前に出られた。しかし出てきた集団はかなり52km/hと遅く、為すすべがない。浜村4車線で全力を尽くすが、トラックに阻まれる。今日は交通安全週間のピークであり(ほとんどの活動は中止だったらしいが)、また雨で路面に水がけっこう溜まっている。日頃の手入れのできていない車はまったく速度が出せない状態だった。魚見台の坂で再び全力を尽くし、遅い連中を振り切れる。青谷の向こうまでペースが保てた。その後しばらくのノロノロは、いちおう予定通り。

北条バイパスでは60km/hと遅すぎ。対向車も多いのでなかなか前に出られない。合間をぬって抜かせど抜かせど速度が上げられない。大栄の道の駅でもフェイントに遭い、結局ちょっと前に出ただけで終わる。

東伯町は相変わらずゆっくりながらもスムーズに抜けられる。引っかけられそうになるが半ば強引に振り切る。実はこの辺りのこと、完全な追尾モードに入っていたためよく覚えていない。


大山町に入る付近でいきなり渋滞し動かなくなる。ずうーっと動かない。諦めて引き返す車のスペース分だけ前進していくが全然嬉しくない。地図で確認してみるがこの付近は通りたくない抜け道しかない。だいぶしてからパトロールカーが追い越していく。どうやら見える先のカーブで事故があったらしい。位置関係からすると、どうやらほんのすぐ前あたりの車が起こした感じ。1時間半ほどしてから少しずつ動き出すが、反対車線の車ばかり来てこちらはほとんど進まない。どうやら不公平な片側通行をやっているらしい。

少しずつ進み、事故現場を通過。3台が関わる派手な衝突事故で、その車両が両側を塞いでいた。横の私有地の柵を全部取り除き片側を通れるようにしたらしいが、事故車両を1台少しだけ動かした方が楽だったはず。学生がよく乗ってるような黒い車と、KOAの商用車がどうやら衝突し、それをグレーの軽乗用車が避けきれなかったという感じらしい。KOAの車は前半分グシャグシャで、多分中の人は……。商用だと結構二人とかで動くから……。(翌日の情報では、重傷で済んだらしい。あの破損で重傷ならラッキーだろう)

通過すると、対向車線は何キロにもわたって並んでいた。あれだけ流してこの距離だから、こちら側(ちょうど朝の[鳥取→米子]組がこの付近を通る時間帯なので、結構多かった)は……と考えるとゾッとする。本気で、早く山陰道を開通させてほしくなった。東西のこれだけの大動脈を、たびたびこういう事のある国道9号一本で支えるのはもう限界だと思う。


事故後も大雨でノロノロが続きそうだったので山陰道へ逃げる。所要時間を大幅に短縮できるなら200円くらい気にしない。嬉しいことに誰もいない。こっち向きに走ってる車そのものが少ないから無理もないだろうけど。この頃になってやっと、BSSラジオで「大山町で3台の事故、付近通行止」と一言ボソッ。遅すぎるっつーの。鳥取→米子所要時間2時間の壁は、いつも何らかの事情で昼間破ることができない気がする。

山陰道から米子バイパスに。しばらくは100km/hの快適速度が続くが、日野川付近で50km/hのトラックに引っかかる。避けて早めに降りようとしたら、同じ方向へ降りてくれた。国道181号へ入る交差点では、目の前で信号を赤に変えてくれた。あとほんの少し速ければ間に合ったのに、あまりにも慎重すぎる。

181号から駅前通りへ入り、地下駐車場を目指す。タクシー乗降場に変な処で止まった軽が1台。その後ろにタクシーが連なり、その最後尾の1台が微妙な位置に居て、地下への入り口に入れそうで入れないところで足止めをくらう。約2分。あんまりだ……。


地下駐車場に車を止め、正面改札口に行くが、10:53の特急やくもはホームに来ていて、発車間際。乗車券を買っていてはとても間に合わない。仕方ないので12:03発のスーパーやくもにする。帰りに従来の「やくも」に乗ることにする。往復指定席で¥6500なら安いといえるだろう。出かける時間もないので約1時間米子駅で時間を何とか潰す。

12:03にスーパーやくも出発。さすが電車だけあり、走行音が非常に静か。旧式レールなため強烈な横揺れとリズミカルな走行音は致し方ないところか。いきなり山陰本線をかなりの速度で飛ばす。確か181系ディーゼル特急でも、ここまで快適ではなかったはず。大きく減速し伯耆大山を抜けて伯備線へ進入、ここもかなりの速度を出す。随所で振り子を精一杯効かせ、車窓を大きく傾けてくれる。結構うれしい。踏切は本当に危険だが、とりあえず他人事なので気にしない。も本当にカーブが多いため、見せ所のオンパレードだった。それでもやはり電車としての最大のメリットは、2.5%の山登りをしても轟音を立てず、スムーズに流れることだろう。こればかりは「特急スーパーはくと」など絶対かなわない。

伯備線の印象としては、確かに高速走行のために路盤、特にカーブを強化してあり、効果も表れている。しかし線路の精度および線形は旧態依然のままで、それがあの乗り心地の悪さとなって表れる。設計そのものが速度に見合ってないのだ。カーブが多いのはSL時代を引きずっているためで、高速化するならもっと直線化しなければならない。カーブの前後にある程度余裕を持たせないと、いきなりカーブに進入したのではさすがの制御付振子電車でも乗り心地をカバーできない。直線部は直線部でもっと精度を良くしないと、車両の横揺れがひどくなるだけである。振子式が災いし、変な横揺れとして拡大してしまっている。このような状況なら、積極的に改良していった方が、結果として線路の摩耗交換を抑えることができて経済的なはずである。


黒坂駅を通過しようとしたところで運転席からベルが鳴り響く。どうやら赤信号を進もうとしてATSが作動、停止してしまったらしい。しばらくして停止位置までバック、そのまま動かなくなってしまう。やがて対向の普通電車が入ってくる。これだけでも十分大きな遅れである。

しかしこの先、上石見駅まで大雨のため30km/h制限となるらしい。しかし雨は出発時ほど降っていない。かなり待った後、ゆっくり動き始める。電車はうならないが、車窓の風景はゆっくり動く。並行道路を軽トラが抜いていく。かつて急行砂丘で味わった悲哀そのままだ。ひらすらゆっくり山をぬって登っていく。距離的にかなりあるため、かなり時間がかかり、うんざり。


谷田峠をトンネルで抜けるとひたすら下っていく。以前、上からの写真を見たことあるが、本当に山の中を、うねうねの道路を跨ぎながら走る山岳路線だ。振り子を目一杯働かせている以外、見所はない。距離もかなりあり、げんなりする。

新見備中高梁と下っていく。単線区間では待ち合わせをすることもあるが、下り列車が待つことが多い。下りのやくもも待っていた。高梁では、反対側で待っている「寝台特急サンライズ出雲」の実物を初めて見た。何でも東海道本線でも大雨で、6時間ほど遅れて来たらしい。しかしその向こうには同方向のスーパーやくもも待っていた。切りつめたダイヤ設定(やくもだけで1日12往復なんて!)をするから無理が出てくるのだろう。

この付近から複線になるが、激しいカーブは相変わらずで、時折反対路線が迂回していく。トンネルを掘らないと複線化できなかったのだろう。この付近は一度車で通ったことがある。車でもきついカーブが続くほどだから、本当にすごいカーブ地帯である。


総社付近から平野に入り、直線的になりロングレールに変わり、急に快適になる。経営上の都合ってやつかもしれないが、もう少し努力してほしい。進行方向が車窓から見えるほど大きく左に曲がり、右から山陽本線が合流し、倉敷に着く。裏のチボリ公園用の出口もあるらしい。倉敷を出ると普通の山陽本線となる。乗り心地は姫路付近と同じ。右側に一本の不思議な高架線が並行するのは伯備線分岐用で、ポイントを省いて高速化を進めたもの。最近まで特急基地だった岡山以西ならではの風景ではある。やがて少しカーブし、大きな車両基地を過ぎ新幹線や瀬戸大橋線、吉備線が合流して岡山へ。津山線から下ってきた時よりも「都会へ来た」という感じがする。

しかしこの時点で、14時40分を越える。2時間半以上乗っていたことになる。何しにスーパーやくもに乗ったんだか……。車内アナウンスではひたすら謝罪と新幹線乗換案内を繰り返す。元々やくもは新幹線乗継ぎを前提としているので、遅れは致命的となるのである。


岡山に着いたものの、中途半端な時間が残ってしまったので街中へ出掛ける。幼い頃から実現できていなかった「路面電車に乗る」こともできた。ただ、広島で頻繁に利用していたこともあり、意外なほど感動は小さい。まあバスよりはいい。


18時頃に岡山駅に戻り、ホームに行く。するとなんと両側に旧「やくも」と「スーパーやくも」の車両が停まっている。案内表示は逆を指しており、ホームで職員が何か必死にアナウンスしている。訊ねると何と「スーパーやくも」車両の方が予定の旧「やくも」らしい。確かに指定席の6号車は旧車両側の3両編成には存在しない。なので「スーパーやくも」の車両に乗り待つ。向こうの車両の発車時刻が近付くにつれ、ホームや車内でのアナウンスが頻繁になっていく。走って移っていく客もいる。どうやら、向こうの車両は、予定では2時間前に到着・発車しているはずの「スーパーやくも」の分らしい。しかも、予定駅も通過し米子に直行するらしい。いや〜な予感が漂う。

結局こちらも、予定の6時20分を10分以上遅れて発車。「スーパーやくも」の車両に変わったのはラッキーといえばラッキーだが、わざわざ旧「やくも」車両に乗ってみたかった人間にとっては、全然ありがたくない。しかしダイヤの上ではやっぱり旧「やくも」であり、停車駅も往路より多い。


車窓を打つ雨が気になっていたが、異変は総社を越えた辺りで起こった。名も知らない田舎駅で停まり、進まなくなってしまった。しばらく車内アナウンスでの説明もなく、乗客もあちこちで愚痴をこぼす。しばらくして流れた放送は「新見生山間で運転を見合わせており、再開の目処が立たない。各列車が各駅で待っている状態」というもの。

さすがに不安になる。米子の駐車場は夜0時までの営業であり、それに間に合わないと朝まで帰れないことになるからだ。金はあったが、こんな理由で宿に泊まるのも納得いかない。

1時間以上不安な時間を過ごした頃、列車が動き出した。しかしまた次の駅でしばらく停車。……このような状態が新見まで続く。一応進んでいるということは動き出したのだろうか。各駅の停車時間がかなり長く、路線もゆっくり走るため、普通列車よりも遅い。こちらは特急指定席料金まで出しているのに。


新見から山登りの速度も戻り、遅れながらも平常走行になる。この頃になると雨は完全に上がっていて、大雨だったとは到底思えない。しかし十分待たされたため、安堵感はもはや無い。やがて山越えし、生山を越えた辺りから再び雨が始まる。問題の区間だけ降っていなかったのは気のせいだろうか?

結局米子に戻ったのは夜11時前。「やくも」に4時間半近く乗っていたことになる。これだけ乗り続けたことは、新幹線の他は「はまかぜ」「あさしお」以来である。当然米子もかなりの雨だった。


駐車代の膨れ上がった車をさっさと出すが、米子駅周辺は相変わらず信号のタイミングが悪く、面白いように引っかかる。 9号線で郊外に抜けても相変わらずの雨。見通しはあまり良くなかったが、危険物もいなかったためむしろ快適だったかもしれない。遅い車もこの日は少なく、いいカモを見付け、何とかこの日のうちに鳥取市まで帰ることができた。


翌日の情報では、なんと伯備線の山間部が2時間以上見合わせたほかは、山陰線のごく一部で徐行が行われただけだったという。つまり、最悪な場所をわざわざ通り、いちばん悪いタイミングで見合わせられてしまったということになる。これでも全ては偶然なのだから、世の中恐ろしいものである。


結局、綿密な行動計画は全て打ち砕かれ、丸一日を潰すこととなった。しかしまだ旧「やくも」に乗るという目的を果たしていないため、多分資金が貯まり次第もう一度挑戦することになるだろう。今度はどのような計画を立てればいいのだろう? 一泊するのが無難だろうか……?


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