ももたろう(その2)

大量発生した桃太郎。果たして平和を取り戻せるのでしょうか……
 99人と1人の桃太郎のおかげで、すっかり賑やかになった長屋。お婆さんは一息ついてお爺さんにききました。
「それにしてもお爺さん、この子たちがいればあの連中に勝てますかねえ。あちらさんもきっと変な能力を持っているんじゃろう」
「それは何とも言えんのう。何日か様子を見とったが、ついに尻尾を出すことはなかったものでのう」
「あいつらは見ての通り、自力じゃ何にもできないぞ」
と、オリジナルの桃太郎が割り込みました。
「あいつらは地球駐留所の下っ端に過ぎんからな、道具を使わんと何もできんぞ。母船が残ってればあいつらなんか一撃なんだがな」
「だとすれば、簡単に強行突破できるのう」
「そうじゃ。援軍を呼ばれる前に、さっさとやってしまおうぜ」
「それにしても桃ちゃんや、なんだか言葉遣いが荒くなったのう」
「そか。大家に村人の言葉を教えてもろうたんだがの」
「あの人にねぇ。まあ構わんが、読み手が誰の台詞か判りにくくなったじゃろう」
「そんなこと俺の知ったこっちゃねえ」
「まあまあ二人とも。どうやらこちらから向かう手間が省けたようじゃよ」

「お爺さん、どうなってますかいな?」
「どうやら、出口を囲まれてしまったようじゃな」
「ったくぅ、雑魚どもが。数で勝負するからいつまでも成長しねえんだよな」
 外から叫び声が聞こえました。どうやらあの山伏のようです。
「モ=モー、そこに居るのは判っている。人間に手を出して欲しくなければ、潔く出てこい」
「なぜここがわかった」
「夜更けにその人数で騒がれれば、阿呆でも判るわ」
 ……確かに。一晩中桃太郎の大群が騒ぎたてていたのです。
「お前のかしらに伝えた通りだ。変えるつもりはない」
「ならば連行するのみだ。行けっ」
兵士が一斉に突っ込んできました。
「行けっ」
 桃太郎が指示すると、99人のコピーも各方向へ向かっていきました。そして兵士たちと格闘を始めました。しかしどちらも武器が無いため、四方で喧嘩をしているだけのようにも見えました。
 やがて、優劣がはっきりしました。桃太郎たちが勝ったのです。兵士たちは全員のびてしまいました。視線は山伏に集中します。
「お、おのれえぇっ」
 山伏が一人で杖を片手に突っ込んできました。しかしやはり多勢に無勢、桃太郎たちに袋だたきにあってしまいました。

「こ、この上はっ!」
 山伏は胸ぐらから卵のようなものを取り出し、指で押さえました。ピッという音がしましたが、特別何か起こったようには見えません。
「ふっ、これでお前たちは何もかも終わりだ」
「やかましいっ」
 再び桃太郎たちに囲まれ、山伏は次の言葉もなく息絶えました。
「これ桃太郎、それくらいにしておかんか」
「爺さんたちの家を焼いたんだ、これぐらいしておかんと」
 とその時、ヒュウ〜という音がどこからともなく聞こえてきました。桃太郎は驚いて空を見上げました。しかし何も見えないようです。
「どうしたのじゃ」
 お爺さんも見上げて、何かを発見したようです。遠くのものは、老眼の方がよく見える場合もあるのです。
「何じゃ、あの真っ黒な球体は。ゆっくり降りてきおる」
「なんてこった。それが地上に降りたらおしまいだ。爺さん、皆を連れてなるべく遠くへ逃げるんだ。」

「よくわからんが、逃げた方が良さそうじゃな。よしちょっと待っておれ」
 お爺さんが長屋の外へ飛び出して行くと、どこからか荷車を引っ張ってきました。
「みんな乗るがよい」
 お婆さんと桃太郎、そして大家さんが乗りました。さすがに99人の桃太郎は乗れるわけがありません。
「しょうがないのう。残りは走ってついてくるんじゃ」
おじいさんは荷車を引いて走り始めました。かなりのスピードが出たため、乗っている3人は何度も振り落とされそうになりました。桃太郎たちも走って追いかけましたが、みるみるうちに引き離されてしまいました。
 どれくらい走ったでしょうか。峠の頂上にたどり着いた頃には、3人ともしがみ着いたまま気を失っていました。後続の桃太郎たちはどこにも見えません。さすがのお爺さんも息を切らし、休憩することにしました。
 お爺さんは3人を起こし、そして街を見下ろしました。ところどころ灯りの見える大きな街の中心に、あの黒い球体が降りていくのが見えました。
「この街の最期だ」
「なんじゃとっ」
「奴は最期に高連鎖爆弾を落としやがったんだ。母船がない以上壊しようがない」
「なんてこった……」

 やがて球体は街へ降りていきました。ぱあっと明るくなり、瞬く間に街が輝きの中へ包まれていきました。さらに外側に広がっていく、何かがありました。
「衝撃波が来る。伏せろっ」
 桃太郎が叫びました。4人が身をかがめて少しすると、猛烈な突風が吹き荒れ、全員吹き飛ばされてしまいました。逆風が吹き返し、轟音のみが残りました。
「ば、婆さん、大丈夫か」
「えぇ何とか。降ろしてくださいな」
「こっちも何とかしてくれぇ」
「これだから年寄りってのはっ」
 お爺さんが二人を降ろしながら桃太郎に問いました。
「今のは何じゃ」
「強力な爆弾さ。街はもう跡形もない。俺の分身も全員消された」
 大家さんが桃太郎にききました。
「すると、生き残ったのは我々だけなのか」
「たぶんな」
「せっかく作った長屋が……退職金でやっと手に入れた自慢の長屋が……」
「大家、町民の心配はせんのか」
「長屋の方が大事じゃて」
「相変わらずじゃのう」
お爺さんが、ため息をついてつぶやきました。
「お婆さんは、お前さんのその執着心に愛想を尽かしたんじゃよ」
「長屋が……長屋が……」
3人は、煙を上げる火口を前に泣き崩れる大家を、黙って見ていました。

 4人は隣の宿場町に滞在することにしました。表通りでは全滅の話でもちきりですが、4人は宿で今後の予定について相談していました。
「これから、どうしたものかのう」
「地球人にあまり迷惑をかけるわけにはいかない。そこでボスを倒そうかと思う」
「もう十分迷惑かけとるとも知らずに……。しかしそう簡単にいくかのう」
「俺は召喚能力が得意だから、強力な部下を揃えて戦おうと思う」
 お爺さんたちは、あの桃太郎の大群を想像してしまいました。それを察した桃太郎、ちょっと赤くなりながら言いました。
「今度は動物を揃える。様々な種類の動物が居れば、それぞれ能力を生かした戦いができるだろう」
「どんな動物とな?」
「種類を特定して召喚するのは難しいからな、出てきた奴を訓練しよう」
 桃太郎は両手を合わせ、呪文を唱え始めました。いつかのように煙が頭上に集まり、渦を巻き始めました。
 始めに降ってきたのは犬。
「きゃんきゃんっ」
「まぁかわいい」
 お婆さんが思わず叫びました。それはもう、生後3ヶ月ほどの子犬でした。
「その犬をこいつで仕込めば、俺のいい部下になる」
 桃太郎は腰の袋を指して言いました。
「その袋はなんぞな」
「これは特製のキビ団子だ。婆さんに教えて作ってもらった」
「見たことない雑草を使ったり、蒸す時間に厳しかったり、味見させてくれなかったりと、変な団子なんじゃよ」
「ほう、どんなもんじゃの」
 お爺さんは一個手にとってみました。匂いをかいだ直後、お爺さんの顔が険しくなりました。
「桃太郎っ、お前はこんな物を部下に与えるのか」
「しつけるにはこれが一番だからな」
「こんなものを使いおって……決して他の者に食わすでないぞ」

 それから召喚した動物は、雉と猿でした。ところが、宿命とはいえ3匹はお互いに極めて仲が悪く、喧嘩をやめようとしません。桃太郎はすぐにあの団子を与えました。3匹はとろけるように倒れ込んで、あまり動かなくなってしまいました。
「さあ、俺様の言うことに従うなら、もっとこの団子をやるぞ」
 すると3匹は、ふらふらと歩き、桃太郎の前に並んで座りました。先ほどの活気はどこへ行ったのでしょうか。
「よし、では俺が今から言うことをしっかり覚えるんだ」
 桃太郎がいろいろ説教を始めましたが、年寄りたちにはさっぱり判りません。しかし、視点も定まらないままじっと座っている動物たちを見て、何かとんでもない事件を起こすのではないかと心配でなりませんでした。

【つづく?】
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